月に妖かし〈序、1〉
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ーー1、偽悪者
透き通った瞳が印象的な、美しい少女だった。
感情というものを遮断したかのようにまるで温度を感じない
その様が酷く無機質に見えて、何処かすわりの悪い印象を無一郎に与える。
お館様の勧めで今日を限りに霞柱 時透無一郎の継子となったこの少女は、名を雛月美波〈ひなつき みなも〉というらしい。
黒刀でありながら、霞の呼吸の手練れだと聞く。
お館様は穏やかな微笑を浮かべて、とても真面目で努力家な子だから、良い方向へと導いてあげてほしいと無一郎に言った。
「御意」
恭しく身を伏せて、無一郎は了承した。
雛月は想像以上に無口な子だった。
霞柱邸への道中も、稽古中も、食事中すら、一言も発しない。
無駄口をきかないのは、無一郎にとって好都合であるはずなのに、……何故だろう?
強い違和感と、居心地の悪さを感じるのだ。
痺れを切らして無一郎が口を開きかけた時だった。
彼女の兄弟子を名乗る連中が、霞柱邸へ押し掛けてきたのは。
押し掛けてきた。文字通り、押し掛けて来たのだ。
それ程の人数だった。
彼らは全員揃って仰々しく頭を下げると、雛月を宜しくお願いします、と声を張り上げた。
鬱陶しい。お館様の命なのだから、君達に言われるまでもない。
無一郎がそう返すと、彼らはあからさまに安堵の表情を浮かべて、今度は雛月を取り囲んで絡み始めた。
“出世したなあ”
“俺らも鼻が高いぜ”
“頑張れよ”
“飯はちゃんと食えよ”
彼らの中心で雛月は表情をぴくりとも動かさず、また返事すらしないというのに、彼らの笑顔は変わらず一切気にした風もない。
まるで“雛月はそういう子だ”と心得ているかのように。
不思議そうに眺める無一郎に、一人の隊士が声を掛けてきた。
「柱、どうか雛月を宜しくお願いします」
「さっきも聞いたよ」
呆れ気味に返してやると、その隊士は苦笑して、
「雛月は真面目な奴なんです」
他の隊士達とは対照的に、深刻な面持ちで言葉を次いだ。
「真面目過ぎて……、何もかも一人で背負い込むんです。柱、」
「何?」
「どうかあいつを、導いてやって下さい」
それから僅か数日後の事だった。
この言葉の重みを思い知る事になったのはーー