月に妖かし〈序、1〉
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ーープロローグ 夢の残像
夢を見た。
銀杏の葉を掻き集めて、花飾りを作る夢。
夢の中、幼い無一郎は兄のように綺麗には出来なくて、半泣きになりながらそれでも懸命に作っていた。
その頃の自分には、譲れない“大切な何か”があって、その“大切な何か”を兄に取られてしまう気がして、必死に。
とても、必死に。
兄さんよりも綺麗なものを作るんだ。
そうすれば、ーーもきっと喜んでくれる。
“大切な何か”の名前が、どうしても思い出せない……。
夢の景色に霞が掛かって、徐々に遠ざかっていく。
咄嗟に手を伸ばすが、まるでそれ自体が霞になってしまったかのように、掴み取る事が出来ない。
霞の中で、誰かが微笑んでいる。
色濃く霞掛かってよく見えないが、此方へ向かって手を差し伸べてくれていた。
目が覚めると奇妙な感覚に囚われた。
何も思い出せないのに、心の中が温かく満たさていて、酷く懐かしい心地がするのだ。
そういえば夢を見ていた気がする……。
ゆるりと身を起こすと、白い頬に温かな雫が伝った。
気が付けば、泣いていた。
「どうして……」
問いかけに答えは返って来ない。その答えは、自身の中にしかない事も理解していた。
それでも涙は暫く止まらなかった。