恋し悟りし
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人里で幽霊屋敷と噂される古い家屋があった。
屋敷へ足を踏み入れた者は、誰一人として帰って来た者はいないという。
鬼の仕業を疑って、鬼殺隊が数人派遣された。
その中には美砂の名もあり、無一郎は夜の見廻りがてらにその報告を聴いていた。
「屋敷の中は電気もつかなくて、真っ暗でした。空気が淀んでて、黴臭くて、天井には蜘蛛の巣がはってて、床にはうっすらと埃が積もってて、歩くとギシギシ鳴って、今にも倒壊しそうで怖かったです」
「屋敷の様子の報告はもういいよ。鬼はいたの?」
「途中で四体ほど鬼がうちの弟をいじめていたので、しばき倒して首を刎ねておきました」
「その報告が聞きたかったんだよ。何ついで感覚で話してるの」
とはいえ四体の鬼を相手に同時に難なく始末するあたり、彼女の実力の高さが伺える。
戦闘の才能は申し分ないのだ。
ただーー
「鬼の残党がいてはいけないので、暫く探索してたんですけど……」
「どうしたの?」
「何もなかった筈の廊下の奥に、怪しげな襖が出没してたんです」
「それで?」
「何かその襖が見えてるの私だけみたいで、」
「うん」
「早速開けてみたらーー」
「待ちなよ」
「はい?」
「はい?じゃないよ。様子を見るって言葉を知らないの?」
「撤退とかありえません。突撃あるのみです。問題ありません」
「問題しかないよ」
嬉々として語る彼女はやっぱりバカだ。どうしようもなくバカだ。
「そうしたら一つ部屋があって、その奥で白い着物を着た半透明な女の人がこっちを見てにやりと笑ったんです」
「え……」
「その瞬間、背後で襖がひとりでにしまって、何故かバチクソに怒ってた弟の“どうして姉ちゃんはいつもいつもそうなんだよ!!”って言葉を最後に襖が消えてはぐれちゃいました」
「…………」
その光景が目に浮かぶように想像が出来てしまい、閉口する無一郎。
その横で相変わらず危機感皆無なのほほんとした笑顔で、美砂は続ける。
「困ってると半透明な女の人がいつの間にか傍にいて、私の手を引いて更に部屋の奥の襖を開けて、廊下をすーっと歩いていくんです。
途中で鈴の音とか笛の音とか太鼓の音とか聞こえてきたんですけど、そこは省略しますね」
「ねぇ、それって……」
鬼の仕業というよりも、本物の幽霊なのではーー
指摘するが、美砂は相変わらずケロッとした様子で。
「私もそう思ったので、ポケットに入れてた塩胡椒を投げつけたの」
「なんでポケットに塩胡椒が入ってるの?怖いんだけど」
「あ、それにはちゃんとした理由があって」
そう言うが、美砂の事だ。
どこまで“ちゃんとした”理由なのか怪しい限りである。
「お清めの塩って言うじゃないですか?そんな訳で念の為に持っていこうと思ったら、家に塩がなかったんですよ。
塩胡椒はあったので、これでいいかって思って。塩も入ってるし」
「…………」
お清めの塩と塩胡椒は全くの別物だと思うが。
とはいえ現状彼女は無事である。ぴんぴんしている。
「続けて」
うっすら疲労感を感じながら先を促す。
「塩胡椒を投げつけたら、その人「目がー、目がー」って苦しみだしたの」
「それって単純に塩胡椒が目に入って痛がってるだけなんじゃない?」
「で、気付いたら元の場所へ戻ってて。弟とも無事に再会できました」
「…………。そう」
激しい頭痛を感じる。疲労感で、だ。
塩胡椒なんかで除霊されてしまった幽霊が、気の毒にすら思えてくる。
ここまで来ると、バカを通り越して、もはや狂気すら感じる。
心配を続けるべきか迷う。
「師範、どうしましたか?何だかお疲れのご様子ですね?」
「君の相手が疲れるんだよ」
「そうですか。後でバナナあげるので元気出して下さい」
「いらないよ」
「わーい見廻り楽しいなー」
何故バナナ。
頭を押さえて、溜息を吐く。
本当に……何故彼女なのだろうーー?