恋し悟りし
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時透無一郎に継子が出来た。
彼女は名を魚尾美砂〈なお みすな〉という。十六歳の少女だった。
両親を鬼に殺害され、残された弟と共に鬼殺隊へ入隊を志願したらしい。
第一印象は“変わった子”だった。それはもう本当に。
霞柱である時透無一郎の指導のもと鍛練を行なうにあたって、弟同伴で挨拶に来た彼女を見て思った。
鬼に身内を奪われたというのに彼等には悲壮感はまるでなく、姉の方に至っては終始朗らかな笑顔を浮かべていた。
「姉を宜しくお願いします」
「お金稼ぎに来ました、魚尾美砂です」
「なぁ、姉ちゃん。もうちょっとオブラートに包めよ」
「お金の為なら何でもします。稼げたら毎日美味しいお刺身が食べれらたらいいなと思っています」
「なぁ、姉ちゃん。ちょっと黙っててくんねぇかな」
終始にこにこしている姉とは対照的に極度の疲労と呆れの浮かんだ表情で、弟は言う。
「姉はこの通りハチャメチャにバカですけど、腕だけは立つんで。バカですけど。姉を宜しくお願いします。バカですけど」
時透無一郎はわざわざ弟が同行してきた理由を察した。
つまり大切な挨拶をするにあたって彼女ひとりでは会話が成立しないだろう事を見越しての行動だったのだ。
魚尾美砂のアホっぷりは朝から晩まで四六時中発揮された。
もちろん任務中も例外ではない。
鬼の支配する屋敷にて複数体の鬼を従える鬼の少女を見て、彼女は嬉々として言った。
「見て見て、師範。美少女です」
「それがどうしたの」
「嬉しいですね」
「何が?」
本当に彼女の思考パターンは一体どうなっているのだ。
呆れ返っていると、鬼屋敷の主と思わしき少女がくすくすと笑って、
「あら、有り難う。お礼に貴女には血塗られた未来をあげるわ。貴女もなかなか可愛らしいから、首だけにして玄関に飾ってあげる」
陰翳の濃い笑みを浮かべて少女が囁く。すると彼女は両手を上げて、
「有り難き幸せ!」
などと抜かす。しかも瞳を輝かせて、だ。
「バカな事を言ってないでさっさと始末するよ」
「えー勿体なーい」
不満げに唇を尖らせながら、刀を振るい始める。
「数が多いですね。師範、分身して下さい」
「出来る訳ないでしょ」
「それもそうですね」
納得したかと思えば。
「師範、分身して下さい」
「…………」
キリッとした笑顔でそんな事をのたまうのだ。
たった今、何に対して「それもそうですね」と納得していたのか問い正したい。
とはいえ、複数体の鬼を相手に魚尾美砂はあっさりと撃破してみせた。
それについて褒めてやると、
「有り難うございます。ついでに階級をあげて貰えると助かります」
「それを決めるのはお館様だから」
「そうですか、残念です」
「階級はともかく、ご飯ぐらいならご馳走してあげるよ」
「やったー!美味しいお刺身が食べたいです」
どうやら刺身が好物らしい。
店で嬉しそうにヒラメの刺し身を頬張る姿は、可愛いと思わなくもなかった。