第七話 蝶屋敷
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ーー3、本懐を遂げる
夕の彩りは空の端に、宵の色が空を染めゆく時分、沙羅は蔵の扉を開いて迷いない足取りで中へと入っていった。
入口付近のスイッチを押すと、黄色味掛かった電球の灯りが辺りを照らした。
広い蔵の中をざっと見渡す。蔵の中には様々な物が保管されていたが、沙羅はそれらには目もくれず、あるものを注視した。
昨日沙羅達を襲撃した竹の束。それらが横たえられて、隅のほうへ寄せられていた。
竹の束は一本一本が両端を斜めに鋭く斬り落とされた形をしており、片方の端には無残に千切れたロープが纏めて置かれている。
それは昨日まで竹の束を束ねていたロープで、沙羅はそれを捨てずに保管しておいて欲しいと頼んでおいたのだ。
その場に身を屈めて、ロープを一本一本丁寧に確認する。
思った通り痕跡は、あった。疑念が確信へと変わる。
「やはり……」
一人呟いて、憂うように半ば瞳を伏せる。
「沙羅」
ふいに背後から声を掛けられた。
少年らしいあどけなさの残る柔らかな低い声が、宵闇に調和して響く。
振り向けば、蔵の戸口に無一郎が静かに佇んでいた。
「こんな場所で一人でいるのは危険だよ」
真摯な眼差しで此方を見つめて、彼はそう言った。
心から心配してくれているのが伝わって、沙羅は淡く微笑んだ。
「大丈夫です。私の立てた仮説が正しければ、これ以上犠牲者は出ません」
「沙羅……」
いったん瞳を伏せて、それからゆっくりと瞳を開くと沙羅は蔵の天井付近、ぽっかりと四角く切り取られた窓を見上げた。
木製の格子越しに窓から覗く月は、沙羅の心情を写し取ったかのように僅かに翳りを帯びていた。
消灯時間を過ぎた深夜の廊下は薄く冷たい闇に沈んでいた。
足音をたてないよう慎重に歩を進め、ついに標的の部屋の前に立つ。
その手に握られた包丁が、鈍い光を放つ。
包丁を握る手が、僅かに震えている。その震えを抑え込むように手にギリッと力を込めて、音をたてないよう細心の注意を払いながら、襖を開けた。
此処は蝶屋敷の離れだ。自分達は現在此処の一室を定宿としている。
畳敷きの小部屋の奥で布団を延べて、標的ーー菊池初夏が眠っていた。
布団に深く潜り込んで、その姿は確認出来ないが、恐らくはまた泣いていたのだろう。
足音を殺して近付いて、握りしめていた包丁を振り翳す。
先程までの震えが嘘のように、心は凪いで、何の躊躇いもなく初夏へ向かって包丁を振り下ろした。
ーー手応えに、違和感を感じた。
反射的にがばりと布団を剥いで中を確認して、絶句した。
「布団……っ!?」
敷布団の上、初夏の姿はなく、ロール状に丸められた布団が横たわっているだけだった。
「何を驚いているんです?以前貴方が使った方法でしょう」
声は背後から。慌てて振り向くと、戸口の前にはいつの間にか、有須沙羅が静かに佇んで、蒼い瞳で此方をじっと見据えていた。
その表情からは一切感情は読み取れず、異国の人形めいた美しい風采と相俟って、少女をよりいっそう無機質な印象にする。
「
表情と同じく感情の読み取れない抑揚のない声で彼女は言った。
それまで抱えていた嫌な予感が的中して、ぞくりと背筋が粟立った。