第七話 蝶屋敷
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その日の空はよく晴れ渡っていた。
空は遠く鳶の鳴く声がする。清々しい空気と川のせせらぐ澄んだ音が心地いい。
「ここが焔川だよ」
「有り難う」
「いや、何かの役に立つならお安い御用さ」
沙羅は静かに辺りを見渡す。そこは何の変哲もない天然の河川敷だった。
水面が陽光を弾いて銀色にきらきらと揺らめいている。
流れは少し速い浅めの川だ。
「この川には焔神様が宿ってて、夜になると仄かに光るんだぜ」
「そう……」
「すっげぇ綺麗でさ……。よく母さんと樹里と初夏と俺で、眺めたもんさ」
柔らかく細められた瞳は優しく、深遠な光を宿していた。
「それだけ綺麗な川なら、もっと有名になってもおかしくないのに」
沙羅が言うと、仁成はけろっとした様子で答える。
「あんまり吹聴すると、焔神様に失礼だろ」
「そうね」
沙羅が同意を示すと、仁成はニカッと明るく笑った。
少年らしいあどけないその笑顔に、胸が温かくなる。
思えば樹里が亡くなってからずっと、彼は険しい顔をしていた。
身内が殺害されたのだ。当然の事ではあるけれど、樹里が存命中の三人の仲の良さを知っているだけに、胸が痛んだ。
沙羅はいったん瞳を伏せて、川へと視線を向ける。
そしてーー
「おいっ……!」
狼狽する仁成の声を背後で聞き流しながら、何の迷いもなく川へと近付く。
川底へと手を伸ばした、次の瞬間、
「危ねぇ!何してんだ……祟られるぞ!」
仁成に強く手を掴まれた。
「…………」
沙羅はゆっくりとその長い睫毛を伏せた。
ーー殺害された真島樹里。
ーーあの人の不可解な言動。
ーー特殊な形状のキーストッカー。
ーー相次ぐ霊障。
ーー電気系統に偏った怪異。
ーー降り注ぐ竹束。
ーー火種のない場所で自然発火した遺体。
ーー夜になると仄かに光を帯びる川。
ーー焔神様の祟。
点在していた幾つもの事象が、一つの線で収束されていく。
ゆっくりと瞳を開く。
「全てーー繋がりました」
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