第七話 蝶屋敷
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「私が……この鬼殺隊に入って学んだ最たるものは、自分が愚かだったという事です。
自分を卑下して言っているのではありません。本当に……愚かだったんです」
静かに語る沙羅の瞳の奥には、慚愧の念が揺れていた。
黙して見守るしのぶの視線の先で、沙羅は言葉を次いだ。
「あの頃の私は、周囲に合わせて愛想笑いを浮かべながらもーー心の底は常に怒りで満たされていました。
何も出来なかった……いえ、しなかったのは、私も同じで、同罪なのに。
愚かだった自分が悔しいから、もう二度と、何も行動を起こさないような卑怯者には戻りたくないんです」
言葉の一つ一つが懺悔のように聞こえた。
沙羅が何に対してそんなに激しい怒りを感じ、何に対して後悔しているのか、しのぶにはわからなかったが。
その瞳にそれらを乗り越えようとする強い意志を感じて。
しのぶは柔らかな笑みを浮かべた。
「行って参ります」
「お気を付けて」
「有り難うございます」
周囲への聴き込みが終わると、沙羅は蝶屋敷の全ての鍵を束ねたキーストッカーを見せて貰う事にした。
それはよく見かけるような輪状のものではなく、少々特殊な形状をしていた。
次に配電盤。つまりはブレーカーだ。必ず元へ戻す旨を約束し、分解して中を調べる。
「これは……」
成程。これでは確かに、頻繁にブレーカーが落ちるのも納得だ。
そう思った時だった。
背後で床が軽く軋む音がして、振り返るとそこにはーー
「師範……」
眉目の整った中性的な顔立ちの少年が一人、静かに佇んでいた。
僅かに癖を帯びた長い黒髪がさらりと揺れて、毛先が淡い碧色に透けたそれが夕刻の陽射しを弾いて淡く艶めいて。
ゆったりとした黒い隊服と、白い肌が、仄かに夕陽に染まっている。
その美しさに、沙羅はそっと瞳を細めた。
「話は全部胡蝶さんから聞いたよ」
相変わらず抑揚のない声音で言い置いて、彼はずかずかと此方へ距離を詰めて来る。
もうすぐ目の前という所まで来ているというのに、彼が足を止める気配がない。
仕方なく後退ると、あっという間に壁際まで追いつめられた。
身体の片側の壁に手をつかれ、更に距離が近くなる。
「師範……」
「何?」
「何故怒っているのでしょうか?」
「怒ってないよ」
「怒っていますよね」
「君は……」
「はい」
「今回の事件、どこまで突き止めてるの?」