第七話 蝶屋敷
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本日の昼食のメニューは旨味たっぷりの鮭とキノコの炊き込みご飯、ダシの効いたあさりと長葱の味噌汁、優しい味わいのふわっふわの親子焼き。
そしてコクと旨味の効いた小松菜のお浸しと、塩気の丁度いい胡瓜の揉み漬けだ。
「君の作る食事はいつも見事に一汁三菜だね」
「母にそう教育されましたから」
「どれも美味しいよ」
「有り難うございます」
継子を預けるにあたって師としてこれからも様子を見に来る……というのは、我ながら口実であったかもしれない。
蝶屋敷まで足を伸ばす口実。
そうでもしないと蝶屋敷へ行く用事がない。
下手をすれば彼女が医学を履修して帰ってくるまで、一度も顔を合わせない可能性もある。
それがどうしても我慢ならなかった。
一日に一度でもいい。
何となく彼女に会いたかったのだ。
それぐらい、有須 沙羅の存在は無一郎にとって欠かせないものになっていた。
彼女のいない日常は信じられないほどつまらなく、一人で食べる食事は酷く味気なかった。
用意された食事も半分ほど進めて箸を止めた。
やはり自分には彼女が必要なのだと痛感した。
「失礼します」
その日沙羅はある部屋を訪ねた。
「有須サン……来てくれたのか」
窓枠へ腰を引っ掛けるようにして凭れ掛かり、読書をしていた仁成が、にこやかに出迎えてくれた。
「樹里さんのお加減は如何ですか?」
「お陰様で順調に回復してるよ」
仁成が背後を振り返ると、奥のベッドに少女が身を起こしていた。
「無理せず、楽にして下さい」
「いいえ、大丈夫です。有須様」
「様は止めて下さい」
「……霞柱様の継子だとお聞きしました」
「それでも嫌なんです。あと、良かったら名前で呼んでくれると嬉しいです」
「分かりました。……沙羅さん」
「はい」
「この度は兄や友人、……それに私の命を救って下さり、有り難うございました」
「いえ、私は今の自分に出来る事を精一杯しただけですから」
二人は穏やかな微笑みを交わす。
そうして沙羅は、手に持っていた盆をベッドに備え付けのテーブルへと静かに置いた。
「昼食をお持ちしました。たくさん召し上がって、元気になって下さいね」
にこりと微笑むと、樹里もまた純朴な笑顔で答えてくれた。
「はい。有り難うございます」
そうして沙羅は部屋を後にした。