第七話 蝶屋敷
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
しのぶの言があながち間違いではなかった事が証明されたのは、次の日の午前の打込み稽古での事だった。
青眼に構える沙羅と対峙する彼女もまた同じように構えてはいるが、相変わらずもじもじとして隙だらけだ。
このままでは怪我をしてしまう。
「栗花落様。参ります」
斬りかかる前に一声掛ける。すると。
「はい」
すうっと彼女の目つきが変わった。
その為安堵して稽古に集中する事が出来た。
その辺の切り替えはやはり流石だ。
それに実力が拮抗しているためか、打込み稽古は思いの外楽しかった。
稽古を終えて、手拭いで汗を拭きながら視線だけを彼女へ向けると、
「!」
思いっきり目が合って、何だか気まずい空気が流れ出す。
「あの、栗花落様……」
言いたい事があるのなら、と沙羅が言いかけた、その時。
「……カナヲ」
聞き取れるか聞き取れないかの小さな声で、彼女がぽつんと呟いた。
「え?」
思わず聞き返すと、
「名前で呼んで欲しい」
また、ぽつん。
「カナヲ様?」
沙羅がそう言うと、彼女があからさまに悲しそうに眉を下げるので、
「………カナヲさん」
そう呼び直すと。
「!なぁに?沙羅ちゃん」
途端にぱっと彼女の表情が嬉しそうに華やいだのだ。
「…………」
………これはあながち、胡蝶しのぶの言も存外的外れではなかったようである。
まさか年上に懐かれてしまうとは(もっとも精神的には此方の方が年上なので、然程おかしな話ではないのかもしれないけれど)。
朝の鍛練を終えて(医学の履修は今夜からの予定だ)、廊下を歩いていると、思わぬ人物と出会した。
ちょうど向かい側から胡蝶しのぶと共に、沙羅の師である時透無一郎が歩いて来たのだった。
「……師範?なぜ蝶屋敷に?」
至って不思議そうに問う沙羅に対し、無一郎は無表情ながら何処か呆れたような顔をして。
「継子を数日間預けるんだ。挨拶をしておくのは当然だろ」
「それもそうですね。お手数お掛けしました」
「うん」
「時に師範」
「何?」
「食事はきちんと摂っていますか?」
「摂ってるよ」
「そうですか。今朝はきちんと召し上がりましたか?」
「食べたよ」
「嘘ですね」
「…………」
それまでにこにこと二人の様子を見守っていた胡蝶しのぶが少しばかり驚いた顔をした。