第六話 誕生日
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いよいよ八月八日当日を迎えた。
沙羅ははりきって朝からご馳走を拵えた。
今朝のメニューは冬のうちにしっかりと乾燥させてストックしておいた柚子の皮の粉末を使った鯛茶漬け、鯛の刺し身、解した鯛の身入の出汁巻き玉子と鯛づくし。
そこに塩気の丁度いい漬物を添えて。
食卓に現れた無一郎も、ちょっぴり驚いていた。
「朝から凄いね」
「今日は師範の誕生日ですから」
「別に気にしなくていいのに」
「日頃の感謝の気持ちです。せっかくですから受け取って下さい」
「ん……」
少し俯いて、頭を搔く無一郎。顔が少し赤い……照れているのかもしれない。
「お昼はふろふき大根ですよ」
「夕飯じゃないの?」
「夕飯は夕飯で考えがありますから」
「そう。楽しみにしてるよ」
「はい」
鍛練はいつも以上に打ち込んだ。その気合は無一郎をもドン引きさせるほどだった。
……何しろ目が血走っていたので。
そうしてあっという間にお昼時になった。
昼食は稲荷寿司に冷汁、大葉を添えた鯵の叩き、そしてふろふき大根だ。
冷汁は暑いこの時期でも食べやすく大葉と胡瓜でさっぱりと。
稲荷寿司は甘すぎずあっさりとした中に深い旨味が効いている。
鯵の叩きは臭みはなく新鮮で、ふろふき大根は出汁の効いた優しい味わいだった。
「本当に君は料理が上手だね」
「母の直伝の味ですからね。きっと喜びます」
「君の話をしてるんだよ」
「…………。有り難うございます」
昼から少しだけ暇を貰い、恋柱邸へやって来た。
屋敷の主である甘露寺蜜璃が、快く出迎えてくれた。
彼女は明るく生き生きとして本当に可愛らしい
歩く度に揺れる明るいピンク色の長い髪は、毛先に掛けて若草色のグラデーション掛かっていて、それを三束に綺麗に編み分けている。
顔立ちはとても可愛らしく、長い睫毛が縁取る若草色の大きな瞳には、くるくると色んな表情が浮かぶので思わず視線が吸い寄せられる。
なんて魅力的な人だろうか。手を引かれ、長い廊下を歩きながらそう思った。
「沙羅ちゃんが遊びに来てくれるなんて嬉しいわ。実はずっとお話してみたかったの!」
「いえ、遊びに来た訳では……」
「あら、そうなの?残念だわ……。お茶をする時間くらいならあるかしら?」
「……それぐらいなら」
「良かった〜~。紅茶とパンケーキをご馳走するから、お楽しみに!」
「いえ、お構いなく」
と言いつつ紅茶だけのつもりが、結局はパンケーキまでご馳走になってしまった。
これから“あるお願い”をする身としては、非常に気まずい。
だが、無一郎の誕生日を祝うためである。
沙羅は意を決して本題を切り出した。