第六話 誕生日
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
八月になった。いよいよ無一郎の誕生日が近くなり、沙羅はより緻密な計画を練るためリサーチを始める事にした。
「師範は何か欲しいものはありますか?」
昼食をとりながら、世間話のついでを装いつつ訊いてみる。
「欲しいもの」
「はい」
無一郎が静かに箸を置いて、此方を向く。
「君が」
不意に此方を見つめる視線にじりっと焼け付くような熱を感じた。
「それを訊くの?」
一瞬も逸らされる事なく此方を見据える瞳はどこか据わっていて、じりじりと焼け付くような熱を伴ったそれは、幾分かの怒りを含んでいるように見えた。
「…………。物品の話をしています」
思わず瞳を逸しながら呟くと、
「ないよ」
実にあっさりとした答えが返ってくる。
「僕が欲しいのは、一つだけ」
淡い碧色の瞳は変わらずじっと此方を見つめている。
まるで追いつめられているような胸苦しさを感じた沙羅は、顔を伏せて「そうですか」と返すと唯ひたすらに黙々と食事を続けた。
本人に直接訊いたのに、結局は全然参考にならなかった。
ちょっぴり肩を落としつつも早々に気分を切り換えて、沙羅は作戦を変更することにした。
こうなったら柱全員に訊いて回ろう。
という結論に至ったのである。
勿論柱相手に簡単に謁見出来るなどとは思ってはいない。
しかしながら推しである無一郎の誕生日のためだ。
何だってやってみせる。
無一郎の顔に泥を塗らない程度に、強行突破をするのだ。
普段の冷静さは何処へやら。もはや無一郎の事しか頭にない沙羅であった。
そんな訳でまずは蝶屋敷から攻める事にする。
幸いな事に診察室にて蟲柱・胡蝶しのぶには難なく会えた。
「今日はどうしましたか?」
「具合が悪い訳ではありません」
「? では一体……」
「個人的なお話で申し訳ないのですが、もうすぐ師範の誕生日です」
「そのようですね」
「師範の欲しがりそうなもので、何か心当たりはありませんか?」
「なるほど……」
ふむふむと可愛らしく相槌を打ってくれていた胡蝶しのぶは、漸く合点がいったとばかりに、
「そういう事でしたか」
これまた可愛らしくぱちんと両手を合わせた。
「そうですね。物ではありませんがーー」
胡蝶しのぶの視線がまっすぐに此方を向いたので、
「物品で」
凄まじく嫌な予感がした沙羅はすかさず釘を刺した。
案の定、胡蝶しのぶの笑顔が残念そうに翳りを帯びる。
「時透君の欲しがりそうな物品は特に心当たりはありませんが……貴女が心を込めて贈った品なら、喜ぶのでは?」
それを聞いて沙羅は思う所は色々あったが、口には出さず、取り敢えず丁重にお礼を述べて蝶屋敷を後にした。