第五話 困惑
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人里へおりて思い知らされた。
彼女は綺麗で、そして目立つ。道行く男が振り返るぐらいには。
その度に仄暗い独占欲が沸々とした怒りと共に腹の底から沸き上がるのを感じた。
しかし恋仲でもない彼女にそれをぶつける訳にはいかない。
彼女もそれなりに毅然とした態度を貫いていたし、まだ耐えられた。
……だが。八百屋の店主。あれは駄目だ。
欲望に塗れた穢らわしい目で彼女を舐め回すように見ていたのだ。
それが、我慢ならなかった。
何故、彼女は気付かない?
無防備が過ぎる。
そう考えると腹立たしくて。強引に連れ帰り、少しばかり説教をしてやる事にした。
当然、彼女は不満げだった。
無一郎の部屋で、ちょっぴりムスッとした顔でちょこんと正座をする彼女は、コンパクトで可愛らしく見えた。
つい緩みそうになる頬を引き締める無一郎。
しかしここで余計なものまで目に入る。
平生はほっそりとしている彼女の脚ーーそれが正座をする事によってムチっと肉感的になっていて。
その様は酷く扇情的で、無一郎はすぐさま目線を外した。
そうして説教を始めたはいいが彼女ときたら、説教中に居眠りときた。
一体どんな神経をしているのやら。
神経が図太いのだ。きっと締縄ぐらいあるに違いない。
「ーー無防備過ぎるよ」
この時、無一郎の中で何かが切れた。
気が付くと、夢中でその唇を貪っていた。
彼女の身体はほんのりと温かくて柔らかく、いい匂いがした。
愛おしい。
ずっとこうしていたいーー
そう思った時だった。彼女に舌を噛み付かれ、身を起こした同時に強烈な頭突きを喰らった。
思わず頭を押さえていると、その隙に彼女が無一郎の腕からするりと逃げ出して、部屋から出て行った。
パタパタと廊下を駆けていく足音がする。
相当に動揺しているのだろう。
彼女の扱う宵の呼吸の性質上、平生から彼女は足音どころか衣擦れの音すら立てないというのに。
無一郎はそのまま壁へ凭れると、深く、深く溜め息を吐いた。