第十話 遊郭
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屋根に降り立ち、対峙する善逸と堕姫。
「お前⋯!!あの時の!!」
驚いた表情を浮かべる堕姫とは対照的に、眠ったままの善逸は抑揚を欠いた静かな声で言った。
「俺は君に言いたいことがある。耳を引っ張って怪我をさせた子に謝れ」
虚をつかれて目を見開く堕姫に構わず、善逸は続ける。
「たとえ君が稼いだ金で衣食住与えていたのだとしても、あの子たちは君の所有物じゃない。何をしても許されるわけじゃない」
「つまらない説教を垂れるんじゃないわよ。お前みたいな不細工がアタシと対等に口を利けると思ってるの?」
滔々と語る堕姫の目に、尋常ではない憎悪の光が灯る。
「この町じゃ女は商品なのよ。物と同じ。売ったり買ったり壊されたり、持ち主が好きにしていいのよ。不細工は飯を食う資格ないわ。何もできない奴は人間扱いしない」
「自分がされて嫌だったことは人にしちゃいけない」
善逸がそう返した、次の刹那。
「違うなあ。それは」
突如堕姫の声に別な声が重なって聞こえた。
「人にされて嫌だったこと苦しかったこと人にやって返して取り立てる。自分が不幸だった分は幸せな奴から取り立てねぇと取り返せねぇ」
階下にいるはずの妓夫太郎の声。それが堕姫の声と重なって聞こえる。
異様で不気味なその現象に善逸が眉を顰め、警戒を上げる。
「それが俺たちの生き方だからなあ」
堕姫の額が盾に割れ、そこから第三の目が現れる。黄色く濁った白目と“陸”と刻まれた眼球。
それは紛れもなく妓夫太郎の目だった。
「言いがかりをつけてくる奴は皆殺してきたんだよなあ」
今、堕姫と妓夫太郎の視界は同調している。
堕姫に見えているものは妓夫太郎にも見える。逆も然り。
戦いの難易度が上がった瞬間だった。
階下で妓夫太郎と対峙していた沙羅は、刀の柄を強く握り締めて体勢を低くした。
「お前らも同じように喉笛掻き切ってやるからなああ」
妓夫太郎の纏う殺気が膨れ上がるのを肌で感じた。圧のようなものが沙羅達の全身を叩く。
背筋が凍りつくような怖気を感じた。
沙羅は耐えるようにギリっと奥歯を噛み締める。
指文字による宇髄からの指示にはもう一つの意味があった。
則ち“先駆けは俺が務める。お前は後方支援に徹しろ”
緊張による汗が伝う。
前線で戦う人間は命のリスクを背負っている。後方部隊のミスなど赦されない。
ーー刹那、妓夫太郎が動いた。
まず狙われたのは沙羅だった。鎌が喉元を突き上げる。
しかし沙羅は紙一重でバク転。剣難を回避する。
入れ替わるように宇髄が前へ出る。
剣戟が嵐のように交錯する。空間が震え、鋼が火を弾く。
そこへ沙羅も飛び込んでいく。
相手の刃圏に足を踏み入れた瞬間、真紅の斬撃が沙羅を襲う。
暴風のような斬撃を刀で防ぎ、いなし、躱していく。
次の刹那、沙羅はふっと何かを吐き出した。
含み針。妓夫太郎の右目を狙ったそれは、しかし妓夫太郎が素早く首を傾けたことで難なく躱された。
しかし一瞬だけ、沙羅達から視線が切れた。
その事により相手に一瞬の隙を生む。
沙羅にはそれで充分だった。死角から這うように刃を走らせる。
宇髄もまた妓夫太郎の頸を狙って刃をふるっていた。
二人同時の攻撃。
ーーだが。
次の瞬間無数の帯の刃が、妓夫太郎を守るように降り注いだ。
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