第十話 遊郭
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暫く経つと、宇髄の様子に変化が見られた。
多汗と呼吸の乱れ。後に現れる症状から推察するに、赤血球を破壊、変成させる溶血活性と、刺傷部位に激しい痛みを伴う腫れをもたらす腫形成活性を持っている。
沙羅はその情報と、鬼舞辻無惨の血を多く得た魘夢より採取した血液から、胡蝶しのぶの協力を得て抗毒血清を作っていたのだ。
「ん?んん?んんんん?」
宇髄の変化に気付いた妓夫太郎が、顔いっぱい口角を吊り上げて勝ち誇ったように嗤う。
「ひひっ。ひひひっ」
「⋯⋯何を笑ってやがる?」
「やっぱり毒効いてるじゃねぇか。じわじわと。効かねぇなんて虚勢張ってみっともねぇなああ。ひひひっ」
「いいや全然効いてないね。踊ってやろうか。絶好調で天丼百杯食えるわ。派手にな!!」
次の刹那、飛び出そうとする宇髄の腕を沙羅が取った。
驚いたような顔を向ける宇髄と、訝しげな視線を投げてくる妓夫太郎と堕姫。
構わず沙羅は、ごく冷静に正確な血管の位置を捉えると、
「失礼します」
そう言って注射器で抗毒血清を打ち込んだ。
「何をした?」
宇髄の問いに静かに答える。
「大量に鬼舞辻の血を得た鬼の血より作った抗毒血清です。効き目は保証できますが、長くは保ちません」
端的に、過不足なく。それを聴いた宇髄は、口角を吊り上げた。
「やるじゃねぇか、お前」
ぐしゃりと力強く、頭を一撫でされる。ーーその時。
「お前の部下、面がいい上に、頭もいいのか」
妓夫太郎の放つ殺気が、肌に突き刺さった。
「気に喰わねぇなあああ!!」
血の斬撃が、沙羅達目掛けて迸る。
沙羅は先程の宇髄の指示を思い出し、後方へ跳んでいったん間合いを切った。
逆に宇髄は前へ出る。
「逃さないわよ!!」
四方より帯の刃が沙羅を目掛けて降り注ぐ。間髪入れず、沙羅も迎撃した。
真っ向から斬り結ぶ。帯の刃は縦横無尽。しかも途轍もない速さだ。
堕姫も上弦、やはり強い。沙羅から鮮血が舞う。
しかし全ては薄皮一枚。肉は斬らせない。
沙羅が攻勢に転じる。
堕姫の体勢は前のめりだ。
沙羅は相手の顔面に回し蹴りを放つ。
「足癖が悪いわね!!斬り落としてやる!!」
堕姫は首を引いて躱し、その体勢のまま強引に帯の刃で横薙ぎにかかる。
だが沙羅は相手の肩に踵を引っ掛けている。
そこを支点に飛び上がり、間一髪で攻撃を躱した。
沙羅はその体勢から流れるように、居合いの一閃を振り出した。
ーー宵の呼吸 壱ノ型
薄闇に剣閃が走り、一瞬にして堕姫の頸を刎ねた。
すぐさま背後を振り返るが、妓夫太郎の傷は薄皮一枚。致命には程遠い。
分かってはいたが、やはり宇髄のいうように一筋縄ではいかないようだ。