第十話 遊郭
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ーー8、上弦 妓夫太郎
ぱらぱらと屋根の残骸が落ちる中、二刀を構えて妓夫太郎を睨み据える宇髄。
その視線の先で妓夫太郎は酷く苛立たしげに自らの顔の片側を引っ掻きながら、口を開く。
「妬ましいなぁあ。お前本当に、いい男じゃねぇかよ。なあぁ。部下信じて送り出してなぁあ、格好つけてなぁあ、いいなぁ。さぞや好かれて、尊敬されることだろうなぁあ」
終始苛立たしげな妓夫太郎に対して、宇髄は顔色一つ変えずに涼しい顔で言い放つ。
「まぁな。俺は派手で華やかな色男だし当然だろ。女房も三人いるからな」
虚を突かれたように一瞬動きを止める妓夫太郎。
「お前女房が三人もいるのかよ」
しかし戸惑いは一瞬にして憎悪に変わり、苛立ちも露わに自らの顔を爪で引き裂く。
「ふざけるなよなぁ!!なぁぁぁ!!許せねぇなぁぁ!!」
生々しい音を立てて鎌が血液で覆われる。
ーー血鬼術 飛び血鎌ーー
薄い刃のような血の斬撃が、無数に宇髄を襲う。この数は捌ききれない。瞬時に判断した宇髄は、炸裂弾を畳へ叩きつける。
爆風により斬撃が吹き飛び、宇髄は階下へ。
「逃さねぇからなあ。曲がれ、飛び血鎌」
液体の刃が変幻自在に形を変えて宇髄へ襲いかかる。二刀で斬撃を捌きながら、宇髄は思考を回す。
ーーあの兄妹。
ーー妹の方は頸を斬っても死ななかった。
ーーあり得ない事態だ。
ーー兄貴の頸を斬れば諸共消滅するのか?
ーー兄貴が本体なのか?
ーーどの道やるしかねぇ!!
炸裂弾を取り出しながら、耳を欹て状況を探る。音からして上の階に人間の気配はない。
そうなれば、迷いはない。素早く投擲した炸裂弾に斬撃を加える。
威力を増した爆撃が妓夫太郎達を包んだのと、それは同時だった。
ーー宵の呼吸 陸ノ型 弾幕 螺旋流星群ーー
薄紅色に輝く無数の弾幕が、螺旋を描いて放射状に散った。
それらは正確に爆撃諸共に妓夫太郎達を呑み込む。
凄まじい爆風が辺りを包み、瓦礫が飛散する。
「⋯まぁ、一筋縄にはいかねぇわな」
不敵な笑みを浮かべる宇髄の視線の先で、強固に重なり合い堅牢な盾と化していた帯が、焼け焦げ、ぼろぼろと崩れていく。
しかしすぐさま再生し、ざわざわと蠢くその中心で、堕姫が妓夫太郎の肩におぶさって帯を盾に互いの身を守っていた。
「俺たちは二人で一つだからなぁ」
此方もまた不敵に笑う。
「⋯⋯有須」
妓夫太郎達からは視線を外さぬまま、宇髄は背後の沙羅に肩越しに指文字で作戦を伝えた。
「承知致しました」
沙羅が応えると、宇髄は肩越しに一瞬だけ微かな笑みを此方へ向けた。
その顔は、どこか嬉しそうに見えた。