第十話 遊郭
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宇髄と分かれ、沙羅は階上へと一気に駆け上がった。
すかさず追撃してくる真っ赤な斬撃を、宇髄が間に入り、食い止める。
「行け!!」
力強い声を背に、駆け上がった階段の先の廊下でまず目についたのは、一組の男女。
恐らく夫婦なのだろう。二人は怯えきった表情で沙羅を見た。
男性が庇うように女性を腕に抱いて、警戒心を剥き出しに沙羅を睨む。
しかしあまりの恐怖に腰が抜けたのだろう。女性は床に座り込み、それを男性が膝立ちになり抱えている。
二人とも立ち上がって逃げる素振りを見せず、身体は小刻みに震えている。
沙羅は二人の前にしゃがみ、目線を合わせた。
「もう大丈夫です。ですが時間はありません。あなた方は私が外へ先導します。付いて来てくれますね?」
ごく冷静な語調で語りかければ、二人は戸惑いながらもやがて落ち着きを取り戻した。
そして女性が口を開く。
「⋯子供がいるの。でも、どこへいるのか分からない。隠れてるんだわ」
「わかりました」
立ち上がり耳を澄ませると、微かに届いたのは幼い泣き声。
脅かさないよう慎重な足取りで、声を辿って近づくと、押入れの前に辿り着いた。
沙羅は一つ深呼吸をして、
「そこにいるの?」
優しい口調で語りかけた。すると押入れの中の気配が揺らぐ。思いがけず見つかって、びくりと身動いだのだろう。
「大丈夫。私は敵じゃないわ。出てきてくれる?」
沙羅が背後の女性へ目配せをすると、女性が子供の名を呼んだ。
すると押入れの戸が開き、子供が飛び出して来た。
「お母さん!」
抱き合う親子。微笑ましい光景だが見守っている時間はない。
「他に此処へ残っている人はいませんか?」
「⋯⋯いないと思います」
「わかりました。私について来て下さい。決して離れないで」
家族が力強く頷いたのと、衝撃と共に畳を裂いて真っ赤な斬撃が周囲に迸ったのは、同時だった。
沙羅はすかさず家族の前に立ち塞がり、刀を構える。
ーー宵の呼吸 伍ノ型 弾幕 神楽ーー
目にも留まらぬ速さで斬撃が重なり合った。薄闇に剣閃が五角形を描き、そこから無数の弾幕が散って、妓夫太郎の斬撃を悉く撃ち落とす。
その隙を縫って沙羅は家族を外へと先導し、街の人々の避難誘導をしていたまきをと須磨へ無事引き渡した。
「あとを頼みます」
「任せときな!」
「天元様をお願いします!」
まきをの背後で須磨が言うと、まきをもまた同じ眼差しを沙羅へ向けてきた。
「承知致しました」
強い眼差しで返す沙羅。僅かに安心したように微笑む二人へ背を向けて、沙羅は再び戦場へと戻るべく駆け出した。