第四話 慚愧
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沙羅が外へ飛び出すと、村人達の悲鳴や怒号が飛び交っていた。
菫の異様な姿に恐れをなして、泣きながら逃げ出す者、石を投げつける者、威嚇するように屶や包丁を振り回す者など反応は様々だが。
菫はそれらを物ともせず、村人達を目掛けて疾走する。
「やめて!」
沙羅の叫びに応える事なく、菫は村人の一人に狙いを定め、襲いかかった。
ガキィィィン!振り下ろされた爪を、寸での所で沙羅が刀で受け止める。
拮抗する力に、ギチギチと互いの刃が耳障りな音を立てる。
「菫ちゃん……もうやめて……お願いだから」
「うるさいっ」
ヒュッと空を切る音がした。かと思えば、次の瞬間沙羅は右方向へふっ飛ばされて、長屋の壁に激突していた。
菫が横へと薙いだ腕が突然、明らかに人間よりも肘一つ分、長く伸びて沙羅へと襲いかかったのだ。
息つく間もなく迫りくる菫を前に、刀を構える。
だがーー
「………れない」
不意に涙が白い頬を伝った。
私には斬れない。その資格はない……。
私の甘さがこの結果を招いた。
………ここまでか。
胸中で呟き、沙羅はそっと瞳を伏せた。
師範……。誓約を守れず申し訳ありません。
どうか……ご武運を。
ザンッと、鋭い爪が肉を引き裂く音がした。
「ーー?」
覚悟した痛みは、いつまでも襲って来なかった。
胡乱げに瞳を開いて、沙羅は予想外の光景を目の当たりにする。
「師範ーーっ!!」
胸元から脇腹にかけて。幾筋も血を滴らせながら、時透無一郎が菫の攻撃をその白刃で受け止めていた。
「どうして……!」
「話は後だ」
「!」
「僕が彼女の動きを止める。あとは君が決着をつけろ」
「どうして……」
・・・・
「大切な人なんだろ」
「!」
「行くよ」
「…………。はい」
無一郎は菫の攻撃を弾き飛ばすと一旦間合いをとる。
弾かれた菫は長屋の壁を足場に間髪入れず、無一郎へと急迫する。
無一郎の足元で、土煙がふわりと舞った。
ーー霞の呼吸 壱ノ型 垂天遠霞 ーー
白刃が、菫の身体を貫きその動きを止めた。
一瞬の出来事だった。
「沙羅」
前に突き出された異形の腕の上に、沙羅がふわりと降り立った。
身体の重みなど感じさない、そんな軽やかさで。
「ごめんなさい……菫ちゃん。先に地獄で待ってて」
ーー宵の呼吸 壱の型
音もなく、静かな斬撃だった。
痛みなど感じさせない、生ある者から刹那でそれを奪う、見事な一刀だった。