第十話 遊郭
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建物の外郭が崩れ落ちる。辺りは人々の悲鳴に包まれたが、幸いな事に犠牲者はいないようだった。
「この⋯⋯、小娘!!」
忌々しげに堕姫が沙羅を睥睨する。沙羅は間髪入れず前へと踏み込み、一気に間合いを消した。
繰り出したのは袈裟軌道の打ち落とし。堕姫はそれを紙一重で躱した。
初手で極限の見切り。皮一枚まで引き付けた時に起きること。
既に堕姫は帯を振りかぶっている。
沙羅はそれを刀身で受け止める。剣圧に火花が散る。
そのまま壮絶な斬り合いへと雪崩込んだ。
「待て。許さ⋯ないぞ。こんなことをしておいて」
混乱に陥る人々の声に混じって、静かな声が聞こえた。怒りに震えるその声は、炭治郎のもの。
炭治郎の声が聞こえていたらしい堕姫が、戦いの最中、面倒臭そうに吐き捨てる。
「何?まだ何か言ってるの?もういいわよ、不細工。醜い人間に生きてる価値無いんだから、仲良くみんなで死に腐れろ」
未だ剣戟の渦の中、堕姫と沙羅は互いに弾きながら致命を避ける。
ーー刹那、堕姫の体勢が僅かに崩れた。
炭治郎が堕姫の後方から帯を掴んでいたのだ。
堕姫を睨みつける瞳は充血し、真っ赤に染まっている。血の涙の跡が見える。そこには確かに修羅が宿っていた。
間髪入れず、漆黒の刃が堕姫の頸を目掛けて振り抜かれた。
堕姫はそれを身を開いて躱し、沙羅の横をすり抜けて炭治郎から間合いを取った。
「失われた命は回帰しない。二度と戻らない」
凄まじい怒りを内に秘めて、静かに唸るような声。
堕姫を睨み据える視線はそのままに、切り取った脚を無造作に投げ捨てる。
堕姫が小さく舌打ちをする。斬られた脚が即座に再生する。
「生身のものは鬼のようにはいかない。なぜ奪う?なぜ命を踏みつけにする?」
重く静かな問い掛けに、堕姫の表情が揺らぐ。あきらかな動揺の色がそこにある。
恐らくは炭治郎の言葉により鬼舞辻無惨の記憶が呼び起され、継国縁壱の言葉が想起されているのだろう。
「どうしてわからない?」
ーーどうして忘れる?
「人間だったろう、お前も。かつては痛みや苦しみにもがいて涙を流していたはずだ」
ドゴッと鈍い音が辺りに響いた。堕姫の拳が屋根の甍を砕いたのだ。
「ごちゃごちゃごちゃごちゃ五月蝿いわね。昔のことなかんか覚えちゃいないわ。アタシは今鬼なんだから関係ないわよ。
鬼は老いない。食うために金も必要ない。病気にならない。死なない。何も失わない」
ゆらりと立ち上がった堕姫は叫ぶ。
「そして美しく強い鬼は、何をしてもいいのよ⋯!!」
圧倒的な美貌に浮かぶ、凄絶な笑み。
「わかった。もういい」
静かに答える炭治郎。次の瞬間、前へと踏み込んだ。
それが戦いの再開の合図となった。