第四話 慚愧
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「貴女さえ現れなければ、村人全員、皆殺しにしてやるつもりだったのに。今度はーーこれでね」
そう言って菫が背後から取り出したのは、良く研がれた包丁だった。
「村人同士、せいぜい疑い合うがいいわ。最期のその時まで」
黄味がかった灯りの下で浮かべる歪な笑顔に、薄く陰が差す。
その様は優しかった少女の心を、何か悪いものがじわじわと侵食していくようで、沙羅はそれを止めたくて、
「それは違う!」
必死になって叫んだ。
「貴女は最初から殺すつもりなんてなかったはず!」
沙羅の叫びに菫は不快そうに眉を顰めて動きを止めた。
そのまま沙羅は説得を試みる。
「今回の事……決して計画的な犯行ではなかったはず」
「どうしてそう思うんですか?」
「だって……、慎重な貴女が計画したにしては、偽装があまりにも行きあたりばったりで、杜撰すぎるから」
「…………」
「貴女はこうも言っていた。私がここを訪れた時、“必ず来てくれると信じてた”と。貴女は凶器に刀を選んだ。貴女が一番罪を着せたかった人間は、……私だったはず」
「…………」
「貴女の淹れてくれたお茶から微かに睡眠薬の味がしたわ」
「どうりで……。一口しか飲んでくれなかった訳ですね」
「貴女は私を眠らせて、その間に私の刀を使って自害するつもりだったのでしょ?誰も傷付ける事なく、私に復讐を遂げるつもりだった」
「……煩い」
「本当はあの人を殺すつもりはなかった。あの人の事は殺人というよりは、事故に近かったはず」
「黙れ!」
「何があったの?話して……お願い」
白い頬を涙が伝う。その様を見て、菫は驚いたように目を見張り、やがて何があったかを語り始めた。
あの日……なずなを失った菫は、血塗れの着物を亡骸の代わりに裏山の花畑の付近になずなを弔った。
それからは毎日欠かす事なく早朝に墓参りをしていた。
あの男はそれを知っていて、菫の跡をつけたのだ。
いつものように暴力を振るい、そしてーー
男に菫は性的な暴行をされかけた。
ここはなずなを弔った場所で。
思い出の花の咲く綺麗な場所で。
そんな場所を、汚そうとする、男に。
菫の中で怒りが破裂するような感覚を覚えて。
気が付けば、ズタズタに引き裂かれた簾のような肉塊が目の前に転がっていたのだった。