第十話 遊郭
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
女性物の艶やかな帯が、四方に向かって無数に張り巡らされている。
その光景を異様たらしめているのは、帯の柄だ。
帯には随所に女性が描かれており、柄にしては奇妙な事に姿形が違う上に服装もまちまちだが、いずれも見目の美しい女性達ばかりだった。
着地した伊之助は、外した関節を器用に戻しながらそれらを注意深く観察する。
人間柄の布?何だこりゃ。いや、この感触⋯⋯生きている人間だ。
女の腹巻きの中に捕まえた人間を閉じ込めとくのか。
それで好きな時に出して喰うんだ。
観察と思考を巡らせながら静かに歩いていると、足に硬いものがあたり、カランと微かに乾いた音を立てた。
そちらへ視線を向けた伊之助は小さく舌打ちをする。足元には犠牲者と思われる人骨が幾つも転がっていた。
ふと、馴染んだ気配を感じて顔を上げる伊之助。
すると女装したままの善逸が、呑気に鼻提灯など出して帯の中で眠りこけているではないか。
思わず、
「何してんだコイツ⋯」
呆れ返って呟いた、その時。
「お前が何をしてるんだよ」
背後から女の声がして、咄嗟にそちらへ視線を振り向ける。
しかしそこには誰の姿もなく、帯がまるで意志を持った生き物のようにシュルシュルと蠢いているだけだった。
しかし特殊な皮膚の超感覚で判る。ただの帯ではない。
「他所様の食糧庫に入りやがって。汚い、汚いね」
吐き捨てるように詰る女の声は、この帯から響いている。
「汚い、臭い、糞虫が!!!」
帯の端で不気味に蠢いて唇の上に、人間のような双眸が現れる。
「何だこの蚯蚓!!キモッ!!」
叫んだ瞬間、伊之助へ向かって帯が鋭い刃となって急迫する。
伊之助は逆袈裟に一太刀。すかさず迫る次なる帯の刃を、手にした両刀で斬り刻む。
「気持ち悪ィんだよ蚯蚓帯!!!」
迫りくる帯を捌きつつ、
「グワハハハハ!!!動きが鈍いぜ、欲張って人間を取り込みすぎてんだ」
自ら間合いを詰めて、四方へ張り巡らされた帯に太刀を浴びせる。
「でっぷり肥えた蚯蚓の攻撃なんぞ伊之助様には当たりゃしねぇ、ケツまくって出直してきな!!」
斬られた帯からずるりと人間達が飛び出して、意識のない人々が地に転がる。
その様子を目の当たりにして帯は内心舌打ちする。
上手いこと人間を避けて斬りやがる。せっかく鮮度の高い食糧を保存していたのに。
そしてあの鬼狩りの感の鋭さ、特に殺気を感じ取る力は尋常ではない。
前後左右どこからの攻撃でも敏感に察知して躱す。食糧貯蔵庫にまで鬼狩りが入ってくるのは想定外だった。
⋯⋯どうする?帯が思考を巡らせた、刹那。
生かして捕らえろ。
堕姫の声が帯の意識下に鋭く響いた。
そいつは“まきを”を捕らえた時に邪魔した奴だ。美しかった。
保存していた人間も極めて美しい十人以外は殺しても構わない。
堕姫の声は続く。
ただ殺すより生け捕りは難しいかもしれないね。
そこにいる何人か喰って
指令の途中で雄叫びとともに伊之助が突っ込んできた。
「オラアアア!!!」
振り抜かれた刀を帯は紙一重で身をくねらせて躱す。
斬れねぇ!?ぐねるせいか!?
帯の端が鋭い刃となって伊之助へ迫る。伊之助は咄嗟に刀を手放して、それを足場に跳躍。
宙でぐるりと身を翻し着地。宙に跳ね上がって回転しながら落下してきた二本の刀を、しっかりと両手に受け止める。
ーー獣の呼吸 陸ノ牙 乱杭咬みーー
跳躍し、技を繰り出したその刹那。
「アタシを斬ったって意味無いわよ。“本体”じゃないし」
ピタリと紙一重で刃が止まる。
「それよりせっかく救えた奴らが疎かだけどいいのかい?」
ハッとして振り返るが、遅い。
「アンタにやられた分はすぐに取り戻せるんだよ」
解放された人質に、帯が再び迫っていた。