第十話 遊郭
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ーー6、其々の戦い
荻本屋に女性の悲鳴が響き渡った。
何、どうしたのと廊下を行く同僚の女性達が振り返る。
「化け物が、化け物が」
女性は心底慌てふためいた様子で同僚の前まで駆け寄って来ると、全力で駆けてきたのか息を整えるように暫く喘ぐ。
「アンタ、仕事の支度しなさいよ」
呆れた顔で嗜める同僚に、
「猪の化け物が、天井とか床とか壊しまくってんのよ」
凄まじい剣幕で言い募る。
「はあ?」
わけがわからず、同僚がひっくり返った声を出す。
「そんな事あるわけないでしょ」
心底呆れたような様子のもう一人の同僚の姿に女性は地団駄を踏みたい気分になりながらも、こうしている間も迫りくるであろう危機を何とか証明しようと、
「じゃあ来てっ」
と言った時、雄々しい雄叫びともに床を突き破って、とうとう女性の言う
鼻息荒く振り返った猪頭を、黄濁した廊下の灯りが照らし、不気味な陰影を刻みつける。
上裸の猪頭。まぎれもなく伊之助だった。だが、場違いな扮装と行動が行動だけに、女性達にしてみたらそれはまぎれもなく化け物としか思えない。
女性達が揃って悲鳴をあげるが、伊之助はお構いなしだ。
「グワハハハ!!ビリビリ感じるぜ、鬼の気配!!」
気配を辿って伊之助は走り出すが、女性達からしてみたら、こっちに来る!といった感じだ。
慌てて逃げ惑う女性達を、はたから見たら化け物が追いかけているような構図でしかなく、廊下はパニックに陥る。
ただ伊之助は本当に女性達を追っていたわけではなく、鬼の気配を辿っていただけなので、途中で足を止める。
「ここか」
確信に満ちた様子で、手にした刃がギザギザとした二本の刀で床を壊しに掛かる。
廊下の角に身を潜めて様子を窺う女性達は顔を真っ青にしてドン引きしていた。
伊之助はそんな女性達の存在などいっさい気に掛けることなく、床に穿った穴を前に興奮しきりだ。
「見つけたぞ、鬼の巣に通じる穴を!!覚悟しやがれ!!」
言うが早いか穴に向かって勢いよく首を突っ込む。⋯⋯しかし穴が小さすぎて侵入は不可。文字通り首を突っ込むだけに終わる。
その奇行を目の当たりにした女性達が震え上がるのを尻目に、伊之助は意外と冷静に穴から自身の頭を引っこ抜く。
「頭しか入れねぇというわけだな。ハハハ。甘いんだよ、この伊之助様には通用しねぇ」
天井へ向かってぬうっと突き上げられた両腕が、ゴキゴキと不穏な音をたてて肩関節から肘関節、手首に向かって順に関節が外されていく。
「俺は体中の関節を外せる男」
すっかり関節の外れた両腕がだらりと垂れ下がる。
「つまりは“頭”さえ入ればとこでも行ける」
意気揚々と穴へ飛び込んで、ぐねぐねと身体をくねらせて穴の中を進む。
その姿は失礼ながら人間としてははっきり言って異様で不気味だが、迷いなくつき進む姿は頼もしいことこの上ない。
「グワハハハ猪突猛進!!誰も俺を止められねぇ!!」
雄叫びとともに穴を進むと、先の方に丸く切り取られた出口が見えた。
そこに向かって飛び出すと、そこはごつごつとした岩肌の洞穴となっており、異様な光景が広がっていた。