第四話 慚愧
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菫となずなは姉妹だ。同じ能力が顕現していてもおかしくはない。
「貴女が何故あの村人を食べなかったのかは分からない。でも……貴女しかいないの」
喉の奥から絞り出すように沙羅がそう言うと、それまで黙って話を聞いていた菫は瞬きを一つ。
そしてーー
「全ては貴女の憶測でしょう?」
月明かりに揶揄を含んだ笑みが映える。それは何処か気圧されるような迫力を伴っていた。
「菫ちゃん……」
悲しげに目を伏せる沙羅の向かいで、菫が灯りを灯す。
部屋がパッと明るくなった。それとは対照的に、沙羅の心は重く沈んでいた。
「それでも……貴女しかいないの」
「まだ言いますか」
「村人全員の家を訪ねて回ったわ」
「ご苦労な事ですね」
「殆どが門前払いだったけれど、それでもこの長屋の構造上、目的のものは確認出来た」
「何です?」
「この時期に火鉢を使った家はなかったわ。ここを除いて」
「!」
「菫ちゃん……貴女は、あの村人を裏山で殺害した後、此処へ運んで、部屋を温め遺体を頻繁に動かす事で死後硬直を遅らせて、死亡推定時刻をずらす事に成功した。あとはその時間に買い物に出て、確かなアリバイを確保した」
「…………」
「貴女しかいないの。誰の目にも触れず、裏山からこの村まで成人男性を運べる身体能力を持つ者なんてーー鬼化した貴女ぐらいしか、考えられない」
「囲炉裏や火鉢の灰なんて、処分してしまえばそれまでです。他に証拠なんてないし、ましてや鬼なんてもの、誰が信じるんです?」
「菫ちゃん……。警察もバカじゃないわ。もっと詳しく調べれば、証拠なんていくらでも出てくると思う。傷口の不自然さにも気付くだろうし、死亡推定時刻だって胃の内容物の消化具合で正確な時間が割り出せる。DNA鑑定と言って、遺体に付着した犯人の髪の毛や皮膚の細胞から個人を割り出す技術だってあるわ」
「!」
菫の顔色がサッと変わる。DNA鑑定の技術が日本に導入されたのは1985年の事だから、この時代にはまだ無いけれど。
鎌をかけるには充分な威力を持っていた。
「貴女って本当……」
ゆっくりと瞳を伏せて、菫が微笑む。
「厭な人」