第十話 遊郭
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圧倒的な攻撃速度。目で追えなかった。これが上弦。手足に力が入らない。身体が痺れてーー落ちつけ!!
自らを叱咤し、炭治郎は立ち上がる。
身体は攻撃に反応できている。そうでなければ今生きてはいない。
手足に力が入らないのは、怯えているからだ。身体が痺れているのは背中を強打しているから当たり前。
あの鬼の武器は帯だ。異能がある。人間を帯の中に取り込める。
建物の中を探しても人が通れるような抜け道がなかったわけだ。
帯が通れる隙間さえあれば人間を攫える。
「生きてるの。ふぅん。思ったより骨がある」
薄闇に甘ったるい声が響く。鬼が窓から現れる。
「目はいいね。綺麗。目玉だけほじくり出して食べてあげる」
圧倒的な美貌に妖艶な笑みを湛えて、鬼は舌舐めずりをした。
煌々と灯る極彩色の灯りに包まれた花街の片隅に、夜闇にひっそりと沈む街がある。
着飾った遊女達で華やぐ表通りとは対照的に、切見世と呼ばれる狭い長屋のひしめく裏通りは、陰鬱な空気が淀んでいる。
切見世とは最下級の遊女屋で、 年季の浅い者や年を重ねた者、または病気に罹り大見世などでは受け入れられなくなった遊女などが集う場所だ。
屋根伝いに辿り着いた宇髄は、物影に身を潜めて中の様子を窺う。
窓の格子越しに見えた光景に戦慄した。
鬼の帯に巻き付かれ、雁字搦めに縛り上げられた雛鶴の姿。
宇髄はすぐさま助け出し、服毒し衰弱していた雛鶴に解毒薬を飲ませた。
「すみません⋯天元様⋯」
「いいからもう喋るな」
弱々しく謝罪する雛鶴を、宇髄は優しく遮った。
「蕨姫花魁が鬼だと気づいたのですが、向こうからも怪しまれ⋯
毒を飲み見世から抜け出そうとしたのですが、蕨姫花魁に渡されたこの帯が、監視及び殺害を目的にしたものだったようで⋯連絡ができなくなりました」
苦しげな息のもと、それでも懸命に自らがおかれていた状況を伝える雛鶴。
宇髄はもう何も言わず、黙って耳を傾けていた。
「天元様。
こんな状況においても気丈にも夫を送り出そうとする雛鶴の姿は、健気だった。
「本当に大丈夫だな」
「はい⋯。お役に立てず申し訳ありません」
「お前はもう何もしなくていい」
静かな声音で囁いて、宇髄は雛鶴を抱き締めた。
「解毒薬が効いたら吉原を出ろ。分かったな」
念を押すようにそう言うと、雛鶴は伏せた瞳に涙を浮かべた。
「⋯⋯。はい」
宇髄は雛鶴の身体をそっと横たえ、再び夜闇の中を疾走りだした。
戦闘は既に始まっている。慎重に気配を探りながら屋根から屋根へ。
捉えた気配を追って、走る。
狙った獲物は逃さない。逃がした時の結果を知るからこその執念だ。
追うべき獲物をーー滅すべき鬼を、必ずこの手で。
捉えた気配は地面の下から。素早く身を伏せて、ひたりと地に耳を付け、耳を欹てる。
誰か戦っている音がする。反響してよく聞こえる。
中は広い空洞がある。しかしそこに通じる道は、幼い子供くらいしか入れない狭さ。
宇髄は背中の両刀に手を掛ける。支えていた布地が切れて、巨大な太刀が姿を現す。
両腕の筋肉が膨れ上がり、太い血管が浮き出る。
ーー音の呼吸 壱ノ型 轟ーー!!!
刹那、凄まじい爆発のような桁違い衝撃が、大地を抉った。