第十話 遊郭
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「それは当然です。どうか気にしないで。笑顔でいてください」
真剣な面持ちで、少年はそう言ってくれた。
「⋯⋯私はあなたにもいなくなってほしくないのよ。炭ちゃん」
鯉夏花魁のその言葉に少年は一瞬驚いたような様子を見せたが、やがて微かな笑みを零して、深く頭を下げた。
「では、行きます」
少年は静かに立ち上がる。
「お幸せに」
「有り難う。炭ちゃんもね。須磨ちゃんのこと⋯宜しくね」
「はい」
少年の返事は力強く、幼いながら頼りがいを感じさせた。
襖から静かに去って行く姿を暫し見守ってから、鯉夏花魁は再び鏡に向き直る。
ふと、背後に気配を感じて、
「何か忘れ物?」
無防備に振り向くとーー
「そうよ。忘れないように喰っておかなきゃ」
艶めかしい衣装に身を包んだ女性が、いつの間にか背後に佇んでいた。
女性の背後では、帯がまるで生き物のように蠢いている。
「アンタは今夜までしかいないから。ねぇ、鯉夏」
大輪の花を思わせる形をした紋様の刻まれた、はっと息をのむほどの圧倒的な美貌に禍々しい笑みを浮かべて、
夕の彩りはすっかり空の端に追いやられ、深い藍色が辺りを染めゆく時分、炭治郎は伊之助の待つ“荻本屋”へ向かって屋根の上を走っていた。
ふいに風にのって微かに漂ってきた異質な匂いを鋭敏な嗅覚が捉えて、思わず足を止める。
頭の芯が痺れるような甘い匂い。確かにそれは鬼の放つものだと確信する。
そう遠くない距離に、鬼はいる。しかも、この方向。まさかーー
素早く踵を返し、炭治郎は再び駆け出した。
その頃“荻本屋”では険しい顔をした伊之助が、今か今かと炭治郎の到着を待っていた。
「遅いぜ!!もう日が暮れるのに来やしねぇぜ!!惣一郎の馬鹿野郎が!!俺は動き出す、猪突猛進をこの胸に!!」
痺れを切らして立ち上がると、ぐっと身体に力を込めて、
「だーーーっ」
と叫んで天井を頭突きでぶち破った。
「ねずみ共!!刀だ!!」
その声に呼応するように、奥からもそもそと“何か”が近づいて来る気配がする。
「アイツ⋯やる奴だぜ。ムキムキねずみなんていう下僕を用意してるなんてよ」
宇髄の使いである“忍獣”ムキムキねずみ。特別な訓練を受けており極めて知能が高い。
加えて異様に筋肉も発達しており、一匹で刀一本持ち運べるほど力も強いのだ。
「俺も“忍獣”使いてぇ!!」
刀を受け取った伊之助は、艶やかな着物を脱ぎ捨てて、いつもの隊服姿で猪の頭をしっかりと被る。
「行くぜ、鬼退治!!」
勇ましく叫ぶその背後で、一部始終を見ていた女性が震え上がっていたが、そんなものどこ吹く風で伊之助は襖をぶち破って駆け出した。