第十話 遊郭
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時を同じくして沙羅は宇髄の後を追って、足速に屋根の上を歩いていた。
不安定な屋根の上を宇髄はものともせずに危なげない足取りで、此方の追跡を振り切るような速度で前を行く。
異様なまでに発達した筋肉としっかりとした骨格で構成された大柄な体格からは、想像もつかないような軽やかさと素早さでもって、容赦なく沙羅を引き離そうとする。
広い背中からは、誰も巻き込むまいとする意志を感じる。たったひとりで戦おうとしている。
それは紛れもない宇髄の優しさだと沙羅は心得ていた。
しかしその優しさに甘んずる気はない。
「来るな」
ふいに鋭い視線が肩越しに突き刺さった。漸く宇髄が足を止める。
少し離れた場所で沙羅も立ち止った。
「俺は時透からお前の身柄を預かっている。責任がある。死なせるわけにはいかない。時透のところへ戻れ」
口調は突き放すようでいて、その奥には確かに温かみが感じられた。
沙羅はゆっくりと瞳を伏せた。
「いいえ。私は引きません。言ったはずです、必ずお役に立ってみせると。これは時透無一郎の継子としての矜持です」
真摯な眼差しでまっすぐに宇髄を見つめる沙羅。宇髄は暫し黙して見つめ返し、やがてふいと背を向けて。
「⋯⋯“あの店”な」
ぽつりと宇髄にしては力ない声音で呟いた。
「“あの店”の女将さんは口が固くてな。情報情報に難儀してたんだ」
“あの店”とは、以前宇髄に連れられて行った料亭の事だろう。
確かに女将さんの口は固かった。プロ意識の現れだろう。誘導尋問をもってしても思うように情報は得られなかった。
「あまりお役に立てず⋯⋯」
言いかけた沙羅の言葉を宇髄は否と遮った。
「外部から得られる情報は限られてる。そんな中でもお前は最善を尽くしてくれた。そのおかげで茫洋としていた輪郭がはっきりした」
ジャリと、宇髄の額当てから垂れ下がる宝石が音を立てた。
しっかりと前を見据えて宇髄が言った。
「“
その言葉は沙羅の同行を許可することを意味していた。
沙羅は一瞬にして気を引き締めると、ごく静かに応えた。
「はい」
柔らかな陽射しを零す淡い青空の下には、広大な花街が横たわっている。
上弦の鬼が潜んでいるとは思えないほどに長閑な風景。
しかし此処には確かに上弦の鬼が巣食っている。息をひそめて蠢いている。
ーー必ず倒す。私達の力で。
沙羅は強い決意を込めて、花街を睨むように見渡した。