第十話 遊郭
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ーー5、それぞれの思い
透き通るような青の中に薄雲が白く漂うよく晴れた空の下、声が響き渡った。
「だーかーら、俺んとこに鬼がいんだよ」
屋根の甍を跨ぐように腰掛けて、伊之助は大袈裟な身振り手振りで熱く語る。
「こういう奴がいるんだって、こういうのが!!」
うねうねと腕を動かし、最後にグワッと広げる。
「うん、それはあの⋯ちょっと待ってくれ」
炭治郎はいまいち要領を得ないとでも言いたげに、戸惑いがちな視線を向ける。
「こうか!?これならわかるか!?」
今度は手振りで伊之助は懸命に状況を伝えようとする。
炭治郎はそんな彼を宥めるように、
「そろそろ宇髄さんと善逸が定期連絡に来ると思うから⋯」
「こうなんだよ!俺にはわかってんだよ!」
「うん、うん⋯」
伊之助の話に頷いていると、静かな声が空気を裂いた。
「善逸は来ない」
声の主は宇髄だった。気がつくといつの間にかそこにいた。
宇髄の横には沙羅も控えている。
コイツ⋯やる奴だぜ。音がしねぇ⋯風が揺らぎすらしなかった。
伊之助は宇髄の身のこなしに驚きを隠せない様子だった。
「善逸が来ないってどういうことですか?」
炭治郎が問う。
「お前たちには悪いことをしたと思ってる」
宇髄の横顔は慚愧の念に満ちていた。
「俺は嫁を助けたいが為にいくつもの判断を間違えた。善逸は今行方知れずだ。昨日から連絡が途絶えてる。
お前らはもう“
消息を絶った者は死んだと見做す」
宇髄が立ち上がる。
「後は俺一人で動く」
その双眸には静かな闘志が燃えていた。
「いいえ、宇髄さん、俺達は⋯!!」
「恥じるな」
炭治郎の言葉を遮って、宇髄は肩越しに彼らへ目を向けて、静かに諭した。
「生きてる奴が勝ちなんだ。機会を見誤るんじゃない」
それだけ言い残して、宇髄はフッと消えるようにその場を去った。
気がつけば、沙羅の姿も消えていた。
「俺たちが一番下の階級だから信用してもらえなかったのかな⋯」
悲しそうに呟く炭治郎へ向き直って、伊之助が言った。
「俺たちの階級“庚”だぞ。もう上がってる」
「えっ?」
「階級覚えてるか?前は一番下の“癸”だったのが、今は下から四番目“庚”だ。いいか、見てろ」
伊之助は自らの手を示し、
「階級を示せ」
ぐっと拳を握った。すると手の甲に赤く“庚”と筆文字が浮かび上がる。
“言葉”と筋肉の膨張によって浮き出るそれは、“藤花彫り”という特殊な技術。
鬼殺隊の印である。
どうだ、と自慢げな伊之助をぽかんとした表情で見つめる炭治郎。
しかし次には、何それ⋯⋯と胡乱げに顔を顰めた。
そんな炭治郎に伊之助は怪訝そうな顔をする。
「藤の山で手ェこちょこちょされただろ?」
「こちょこちょされた覚えはあるけど疲れてたし⋯⋯こういうことって知らなかった⋯」
「⋯⋯⋯」
しょんぼりと肩を落とす炭治郎の背中を、伊之助がぱんっと叩く。
「元気出せよ!」
それにより炭治郎もはっと正気を取り戻したように力強く前を向いた。
「そうだ、こんな場合じゃないんだゴメン。夜になったらすぐに伊之助のいる“荻本屋”へ行く。それまで待っててくれ。一人で動くのは危ない」
「何でだよ!」
「今日で俺のいる店も調べ終わるから」
言葉が終わらぬうちに、伊之助が炭治郎の頬を抓り上げた。