第三話 波紋
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ビシャッ……!鮮血が、壁を染め抜いた。
何か丸いものが床へ転がり、菫が悲鳴を上げてそこへ駆け寄っていく。
一体何が起こっているのだろう。理解出来なかった。
否。理解することを脳が拒んでいた。
顔色を蒼白にして唇を震わせる沙羅はただぼんやりと、刀に付着した血を振り払う自らの師の顔を見詰めていた。
「鬼と一緒に暮らすなんて。何を考えてるのかな?莫迦も休み休み言いなよ」
口調の抑揚は乏しいのに、酷く険を含んだ低い声音が沙羅の心臓を突き刺した。
平生はぼんやりとした淡い碧色の瞳は昏く沈み、冷ややかな光を湛えてじっと此方を見据えていた。
怒っているのだ、彼は。
炭治郎が現れるまでーーその記憶を取り戻すまで、決して心を動かさないはずの彼が。
しかし今の沙羅にとってそんな事はどうでも良かった。
「分かってると思うけど。今回の君の行動は、鬼殺隊失格だよ。帰ったら謹慎処分が下されると思う。いい機会だから暫く頭を冷やしなよ」
そう冷たく言い放って彼は、無一郎はその場に力なく崩れ落ちた沙羅の腕を掴んで立たせようとした。
だが、
「触るな」
沙羅は渾身の力でその手を振り解いたのだった。
淡い碧色の瞳が少しだけ驚いたように僅かに見開かれた。
「なずな……なずな!逝かないで!お姉ちゃんを独りにしないで……っ」
肉の焦げる臭いがする。優しく善良だった少女の身体は、無情にも黒く焼け焦げ、細かい塵となって散っていく。
………守れなかった。約束したばかりなのに。
菫の悲痛な泣き声が、骨まで響いた。
「……めん、……なさい……」
項垂れた沙羅が何かを呟いた。
無一郎が「何?」と訊き返すが返事はない。
その事に眉を顰めて耳を澄ませると、
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
沙羅は泣きながら、ひたすら謝罪の言葉を繰り返していた。