第三話 波紋
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翌日の早朝、沙羅は自らの鎹鴉にお館様宛の文を託した。
「頼んだわよ。
決意を秘めた強い眼差しが、真っ直ぐに鈴仙を見詰める。
鈴仙はそれに応えるように高らかに一声鳴くと、空高く飛び立っていった。
「この村を出る?」
訝しげに眉を寄せる菫に真正面から向き合い、沙羅は慎重に言葉を選んで口を開いた。
「そう。貴女達姉妹はこの村を離れた方がいい。どこか人目につかない山奥で、ひっそりと暮らすの。ーー私と」
「沙羅お姉ちゃんと!?」
途端に目を輝かせるなずなに、菫がすかさず釘を刺す。
「なずな、貴女は黙ってなさい。これはそんな簡単な問題じゃないの」
なずなは拗ねたように口を尖らせつつも「はぁい……」と素直に口を噤んだ。
「これからは貴女達姉妹の面倒は私がみるわ。貴女達は私が守る」
「どうして貴女が見ず知らずの私達の為にそこまで」
「私は」
「?」
「鬼を狩る仕事をしているの」
「そんな……っ」
「それでも、何の罪もない鬼は斬りたくはない」
「……その言葉、信じてもいいんですか?」
「貴女達と数日一緒に過ごしてみて分かったの。なずなちゃんは他の鬼とは違う」
なずなの命の灯火は、そう長くないだろう。
ならば、その命が尽きるまでーー傍で見守りたい。
「約束するわ。私について来てくれるなら、どんな事があっても私が貴女達を守る。他の鬼狩りにも決して手出しはさせない。だから……」
探るように此方を見詰める菫の瞳を、それに応えるかのように沙羅もまた真っ向から見返した。
「信じて」
不意に一雫、菫の頬を涙が伝った。
沙羅はそんな菫の身体をそっと抱き寄せた。
「今まで独りでなずなちゃんを守ってきたのね。よく頑張ったわ。でもこれからは独りじゃないから。私も一緒になずなちゃんを守るから」
「わ……私も働きます……っ」
「うん。三人で頑張って生きていこうね」
大丈夫……。お館様ならきっと理解を示してくれるはず。
この時の沙羅は希望に満ちていた。
そのままなずなの方を振り返る。
そんな沙羅の視線の先でーー
光が、斜め下から斜め上へと走った。