第十話 遊郭
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陽が高く昇って正午。遊郭は朝と変わらずひっそりとしている。
夜は華やかな灯りに照らされて気にならなかったが、昼間改めて見ると木造の建造物が互いの土地を侵食し合うようにひしめき合っている。
空は低く狭く感じられて、まるでジオラマみたいに空間がこの場で閉じているような印象を与えた。
そんな街の一角。沙羅が連れて来られたのは寂れた定食屋ーーなどではなく、格式高い料亭だった。
「定食屋ではなかったのですか?」
騙されたような気分になって、じとりと半眼で宇髄を睨めつける沙羅。
食事前に
しかし当の宇髄はそんなものどこ吹く風といった様子で飄々と、
「それだけお前には派手に
ニヤリと口の端を吊り上げて、左右が非対称な独特な笑い方をした。
端正なその顔でそういう仕草をすると、妙に様になるのだった。
行間を読んだ沙羅は、押し黙る。抗議の代わりにたいそう見事な渋面を突きつけて。
程なくすると店の奥から女将さんらしき人が現れたので、沙羅はいつもより少しばかり表情を和らげて待った。
宇髄が遊郭に潜む際の行きつけにしていたらしいこの店の女将さんは、丁寧に頭を下げて挨拶をすると、少し怪訝そうな視線を此方へ向けた。
「此方の方は?」
「婚約者だ」
沙羅の肩へ手を置いて宇髄。これに対し沙羅は一瞬ぴくりと口元を引き攣らせたが、すぐさま笑顔を作って実に綺麗な所作でお辞儀をした。
「まぁ、そうだったんですね。綺麗な方」
女将さんは妙に納得した様子で笑顔を浮かべると、手入れの行き届いた中庭に面した座敷へと案内してくれた。
部屋の中心に黒く艶々とした重厚な座卓が一つ。座卓を挟んで向かい合う形で分厚い座布団が敷かれた座椅子が置かれている。
真新しい青い畳の匂い。床の間に飾られた古い掛け軸。
雪見窓の障子に切られた窓越しには美しい庭が見渡せた。
宇髄は座布団にどっかりと腰をおろし、庭を眺めている。
沙羅もその向かいに静かに正座した。
程なくして料理が運ばれ、上品な笑顔を浮かべた女将さんが料理の説明をしてくれる。
旬の素材をふんだんに使ったコース料理は、器や盛りつけにも細部にまで拘りが見られて美しく、味も絶品だった。
特に向付として出されたお造りと、強肴として出された茶碗蒸しが気に入った。
うまいだろ、どんどん食えと笑顔で宇髄。なぜ貴方が自慢げなのだと思いつつ、ふと、師範にも食べさせてあげたいな⋯⋯そんな思考が脳裏を過ぎり、ふるりとかぶりを振った。
⋯⋯さて、食事も終盤。沙羅もまた
「こういうお店は遊女の方もお客さんと来るのですか?」
この質問に対し、宇髄は少々ぎょっとした。単刀直入過ぎるだろ。
女将さんの笑顔にも戸惑いが混じる。
「遊女さんは来ない、ですねぇ。⋯⋯どうしてそんな事を?」
しかし沙羅は一切動じることなく、いたいけな少女の顔など作って続けた。
「そうなんですね⋯⋯不躾にごめんなさい。女学校の課題で街の歴史について調べているんです。遊郭の事について詳しく知りたくて⋯⋯」
ほんのりとはにかむ沙羅は同性でも見惚れるほど可愛らしく、女将さんはすぐに警戒を解いてくれた。
女将さんの中でその身なりや所作から沙羅は良家のお嬢さん(間違ってはいないが)という解釈だ。
そのためこの嘘もすんなりと信じてくれたようだった。