第三話 波紋
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その夜なずなが倒れた。原因は考えるまでもなく極度の飢餓状態だった。
どうする……。血液を少し分け与えようか。
だが、それが原因で、彼女が血の味を覚えてしまったらーー
沙羅が逡巡し、眉を寄せていると、なずなが小さく呻いた。
「う……お腹……空いた……」
「………!」
もしもこの子が、人を襲う事になったらーーその時は私が決着をつける。
そう覚悟を決めて、沙羅が懐剣に手を伸ばした、次の瞬間だった。
「お姉ちゃんの……お姉ちゃんのご飯が、食べたいなぁ……」
ーーーー!
言葉にならない思いが、喉の奥で詰まった。
「なずな……!しっかりしてっ」
「お姉ちゃん……私ね、生まれ変わっても、またお姉ちゃんの妹がいい」
「うん……!うん……!」
「その時は、また……お姉ちゃんのご飯を……お腹いっぱい食べたい……なぁ……」
「私も……私の作ったもの美味しそうに食べてくれるなずなが大好きよ。生まれ変わっても、私もなずなのお姉ちゃんになりたい」
妹の手を握り締め、微笑む菫になずなもそっと微笑み返す。
「沙羅お姉ちゃん……?どうして泣いてるの?」
なずなの傍らでぼろぼろと涙を零す沙羅を、姉妹が不思議そうに見詰める。
「ごめん……ごめんね……」
今はただそれしか言えなかった。
「沙羅お姉ちゃん、これあげる」
それはあの日山で作った花冠と同じ花を押し花にした栞だった。
「……こんなに素敵な贈り物貰っちゃったら、お別れが辛くなっちゃう」
苦笑しながら受け取るも、とても大切な宝物を扱う気持ちを込めてそっと胸元に引き寄せる。
その様子になずなは満足げに笑った。
「実はそれが狙いなんだ」
「ひどーい」
「離れていても、私達の事、忘れないでね」
「うん……。絶対に忘れない」
「有り難う。沙羅お姉ちゃんはとっても優しいね。私、沙羅お姉ちゃん大好き!」
「私も、なずなちゃん達が大好きよ」
「えへへっ。嬉しいっ」
辛い環境においても屈託なく笑って、素直に甘えてくるなずなを胸に受け止めると、トクンと胸が疼いた。
そうして沙羅は、とある決意を胸に虚空を睨んだ。