第十話 遊郭
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遊郭の建物は、非日常性を演出し、装飾豊かで、顧客を惹きつけるための工夫が凝らされている。
社寺建築に似た非日常感を演出する一方で、ステンドグラス、円窓、色タイル、豪華な庭園など、さまざまな建築様式を折衷した独特の佇まいが特徴だ。
そんな建物に囲まれ夜もなお明るく照らされた街並みを無一郎と二人、静かに歩く。
当然といえば当然だろう。赤みがかった仄暗い灯りの下でもはっきりと分かるほど、無一郎は中性的だが眉目が整っている。
絹ように滑らかに艶めく長い黒髪は、毛先に掛けて淡い碧色に透けていてーーそれらが凛々しい漆黒の隊服姿と相俟って、遊郭の華やかな雰囲気にも決して引けを取らない存在感を放っている。
自分でも気づかぬうちにぼうっと見惚れながら歩いていると、一人の女性が声を掛けてきた。
「ちょいと旦那、なかなか綺麗な子を連れてるじゃないか。良かったその子をうちで引き取らせてくれないかい?」
女性は嬉々として無一郎にそう言った。三十代半ばの女性。きっと何処かの店の女主人なのだろう。
これに対し無一郎は妙にきっぱりとした語調で、
「悪いけどこの子は売りものじゃない。ふざけた事を言わないで」
女性の言葉を一蹴して、沙羅の手を掴んだ。
「行くよ」
戸惑う女性を残して、足速にその場を立ち去る。沙羅としても鬼の棲む京極屋以外に用はないので有り難かった。
しかし⋯⋯。
「師範」
「何?」
「申し訳ありませんでした」
まだ潜伏先を伏せていた事を謝罪していない。いくら許可を得るためとはいえ、必要な情報を伏せるというのは嘘を吐いてしまう事と同等の罪な気がした。怠惰で卑怯だった。
たとえ反対されたとしても、真摯に説得するべきだったのだ。
「⋯⋯⋯⋯。いいよ。時間がなかったんだろ」
「はい」
「それに、僕が怒ってたのはそれだけが理由じゃないよ」
「どういう事でしょうか?」
「あとは僕の問題だから、君は気にしなくていいよ」
「気になります」
「君は知らなくていい」
話は終わりだとでもいうように、無一郎は半ば瞼を伏せた。
際立って長くて美しい事のわかる睫毛が、伏せた瞳に掛かっている。
どことなく憂いを帯びた表情は美しくて、沙羅は思わず口を噤んでしまった。
確かに無一郎は怒っていた。だがそれは、本当に無一郎自身の問題だった。
沙羅が片時もじっとしておらず、傍にいない事。いつだってこの手をすり抜けて、自由に飛び回っている。
そして、その行き先が、よりによって宇髄のもとであった事。
全ては一方的な嫉妬だ。それを沙羅へぶつけるのは間違っている。