第三話 波紋
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翌日沙羅はなずなを連れ出した。
村の裏手には大きな山があり、そこなら花ぐらい自生しているだろうと考えたのだ。
「大丈夫かな……。お姉ちゃん一人残して」
「大丈夫。暴力オジさん達なら沙羅お姉ちゃんがボコボコにして重ねて来たでしょ?それともまだ他にもいるの?」
「ううん、いないよ。でも……」
「優しいんだね。なずなちゃん」
「そうかな?えへへ……お姉ちゃんが大切なだけだよ」
はにかむように悪戯っぽく笑う様は本当に無邪気で。
この少女が鬼だなんて、沙羅にはにわかには信じられなかった。
なずなの姉妹は人間である姉を含めて本当にか弱く、どうやら村人達に暴力を受けているらしかった。
ーー否、違う。
「お姉ちゃんはね、すっごく優しいんだ。私が殴られてると、いつも庇ってくれる。私の怪我はすぐ治るから、いいのに……大丈夫なのに。反対にお姉ちゃんの怪我はいつまでも残るのに、いつまでも痛いのに……それでも庇ってくれるの」
半ば伏せられた瞳は悲しそうに揺れていた。
沙羅は掛けるべき言葉が見つからず、ただ身体の横で拳を強く握り締める。
「沙羅お姉ちゃん!危ない!!後ろ!!」
悲痛な叫びに振り向けば、大きく鋭い爪が、沙羅を目掛けて振り下ろされようとしていた。
熊だ。沙羅は素早く刀の柄に手を掛ける。しかし沙羅が刀を振るうよりも先に、素早く横切る影があった。
ザンッ、と肉を引き裂く鋭い音と、続いて獣の咆哮が辺りに響く。
沙羅の視線の先で、熊が地面へと倒れ伏した。
「…………。やっぱり強かったんだね」
沙羅はあまり驚かなかった。
熊の屍骸の傍ら、手を真っ赤な血に染めた、なずなの姿に。