第三話 波紋
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去っていく男の情けない後ろ姿を眺めていると、背後で少女が小さく呻いたのでハッと我に返る。
「君、大丈夫!?」
慌てて少女の容態を確認する。
「私傷薬持ってるの!お家どこ?送ってあげるから……っ」
そこまで言って、絶句した。
少女の傷が、みるみるうちに癒えていくからだ。
そうして身を起こした少女の髪は、灰色がかった銀髪で、瞳は綺麗な翡翠色ーーしかしその瞳孔は猫のように縦に開いており、小さな口元からは微かに牙が覗いていた。
それらを目の当たりにした沙羅は全てを悟った。
この子がーー鬼なんだわ。
「助けてくれて有り難う。私、なずな。お姉ちゃんは?」
すっかり傷が癒え身を起こした少女の着物についた土埃を払い落としてやると、少女が言った。
年の頃で言えば、十歳前後であろう幼い少女(あくまでも見た感じだが)。
屈託のない笑顔が気に入って、沙羅もにこりと笑い返す。
「可愛い名前。私は沙羅。有須 沙羅よ」
「お姉ちゃんも綺麗な名前だね!」
なずなはにっこりと笑ってーーそして、次には道端の隅の方へ目をやった。
視線の先を目で追えば、そこには人の手で摘み取ったような花があり、それは踏み潰されてすっかり萎れてしまっていた。
「今日は私のお姉ちゃんの誕生日だったんだ。だからお姉ちゃんの好きなお花あげようと思ったんだけど……」
そう言って悲しそうに瞳を伏せる。
その様は人間と何も変わりなく沙羅の瞳には映った。
「仕方ないよねっ」
そしてまたにっこりと笑う。
「沙羅お姉ちゃんは旅人さんなんだよね?」
「うん」
「なら、うちに来るといいよ!うちのお姉ちゃん、すっごくお料理上手なの!」
「え、でも……」
「早く、早く」
半ば強引に戸惑う沙羅の手を引いて、笑顔で駆け出すなずな。
こうして沙羅は、暫く姉妹の家に身を寄せる事となったのだった。