第三話 波紋
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沙羅が任務へ向かったあの日から、ちょうど五日が過ぎていた。
にも関わらず未だ何の音沙汰もない。
訊けば鬼はまだ子供で、そう難しい任務ではないという。
沙羅の実力なら、何の問題もないだろうとの事だった。
では、何かあったのか。
無一郎は刀をぎりっと握り締めると、雑念を振り払うため道場へと向かった。
時間は少し前へ遡る。
それは沙羅が初めて鬼のいるこの村を訪れた時の事だった。
美しいが随分と閉鎖的な村、というのが第一印象だった。
綺麗な長屋が立ち並ぶその村は整備も整っており、緑も豊富で欠けているものなど何もない。
この村だけで全てが事足りる。
村人達は皆満ち足りたように笑っている。
押し付けがましくも思える幸福がそこにはあった。
しかし同時にそれは、この村のコミュニティが決して外に向かっては開けてはいない事を意味していた。
その事実はある種の不気味さを沙羅に感じさせた。
「こいつ!村の花を勝手に盗みやがって!」
唐突に聞こえた不穏な声にそちらへ目を向けると、大の男がまだ年端もいかない少女に暴力を振るっているのが目に飛び込んできた。
「何してるの!やめなさい!」
思わず間に割って入ると、男は不快そうに顔を歪め、
「あぁ?こいつが村の花を勝手に盗みやがったんだよ。自業自得だ」
「だからって、ここまで殴らなくても……!」
「てか、嬢ちゃん誰だ?この村のもんじゃねぇな?」
「私は……旅人で……」
「随分と別嬪さんじゃねぇか。そうだなァ……アンタに免じて今日の所はそいつを見逃してやっても良い。……その代わり」
男は舐め回すような目つきで沙羅を見る。
途端に沙羅の表情がすうっと冷たく昏く沈むが男は気付かない。
「分かるだろォ?」
男が沙羅のスカートへ手を伸ばした、その瞬間。
「ぎゃっ!!」
一瞬の出来事だった。
沙羅は男の手を掴み上げ、素早く懐に入ると同時に男の足元を刈った。
バランスを崩した男は背後の壁へ激突する。
沙羅はその隙を見逃さず、自らの肘と背後の壁で挟み男の喉を締め上げた。
「私、うるさい人は嫌いなの。これ以上騒ぐなら、その喉を潰すわよ。オジサン」
ワントーン低い声音で脅すと、男は引き攣った悲鳴を漏らして逃げていった。