第九話 華鬼と鏡屋敷
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徐々に空が重く、暗くなり、ついには雨が降りだした。
寒い……。ただでさえ山奥の夜は冷えるというのに、今日はとことん運がない。
沙羅は小さく溜息を吐いて、自らの腕をゆっくりと擦った。
「寒いの?」
ごく静かな声音で問われ、そちらへ視線を向けると、ぼんやとりとした瞳が、どことなく心配そうに沙羅を見つめていた。
「少しだけ……でも平気です」
記憶を失っていても、引くほど毒舌でも、根底にある優しい心はやはり変わらないのだろう。
沙羅は無一郎を安心させてあげたくて、淡く微笑ってみせた。
それに対し無一郎は暫く逡巡する仕草を見せた。
ーーそして。
「おいで」
沙羅へ向かって、ゆったりと両腕を広げる。
「……え?」
驚いて、思わず目を瞠り、身を固くする沙羅。
そんな沙羅をまっすぐに見つめて、無一郎は言葉を重ねる。
「怖がらないで。沙羅、……大丈夫だから」
前髪を掻き上げながら、無一郎は言った。
「
“この傷”。それは前髪の生え際から2cmほどの傷跡だった。
以前、蝶屋敷で、降り注いだ竹束から沙羅を守ってくれた時に負ったもの。
「おいで、沙羅」
ごく静かに、無一郎が言う。
……信じていいのだろうか。戸惑いながらもおずおずとその腕に収まる沙羅を、無一郎はゆっくりと抱きしめた。
力強い両腕は、まるで壊れものを扱うみたいに優しく、大切に包んでくれている。
鍛え抜かれ、しっかりと筋肉のついた無一郎の身体は、とても温かかった。
力を抜いて、身を委ねると、薄い皮膚越しに心臓の鼓動が伝わってくる。
それはいつもより、少しだけ速い気がした。
「震えてる。僕が怖い?」
くっきりとした二重瞼に収まる淡い碧色の瞳が、まっすぐに沙羅の顔を覗き込む。
薄闇に沈むそれはとても綺麗でーーそして確かな熱を孕んでいた。
……それでも。
「今夜はこのまま眠ろう」
此方を安心させるように背中を擦って、その長い睫毛をそっと伏せる無一郎。
その瞳をもっと見つめていたい衝動をぐっと堪えて、沙羅もまた瞳を伏せた。
……本当は、わかっていた。
私はもうずっと以前から、この人の事が好きなのだと。