第九話 華鬼と鏡屋敷
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ーー3、彷徨う心
濁流に押し流されながらも張り出していた岩を掴み、岸辺に辿り着く。
這い上がって咳き込む無一郎。腕に抱いていた沙羅をそっと横たえて、頬を軽く叩くが、沙羅には意識がない。
それどころかーー
「沙羅……!」
襟元を緩め、口移しで空気を送る。重ねた両手で胸部を圧迫しながら、必死に呼び掛け続けた。
「沙羅、息をしろ!」
何度も繰り返すと、漸く沙羅がゴホッと水を吐き出した。
ほっと安堵の息をつきながら、激しく咳込む沙羅の背中を優しく擦ってやった。
暫くの間そうして、沙羅が落ち着いた頃合いを見計らい、無一郎達は動き出した。
「最上さんは大丈夫でしょうか」
獣道をものともせずにスイスイと歩きながら沙羅が心配そうに呟いた。
何となくそれが気に喰わなくて、同じくスイスイと歩きながら無一郎が答える。
「鬼は僕達が倒したし、事後処理くらい一人でできるでしょ。
ほとんど役に立たなかったし、それぐらいやってもらわないと困る」
相変わらずの毒舌ぶりに斜め後ろを歩く沙羅が苦笑する。
「それより僕達の話をしよう。こんな状態でこのまま歩き回るわけにもいかない」
「そうですね」
「かなり流されてしまったし、此処がどこなのか見当もつかない。
今夜はどこか風を凌げる場所を探して、夜が明けてから戻ろう」
「承知致しました」
朝晩冷え込むようになったこの季節、山奥の夜は寒い。
特に無一郎達は今、濡れ鼠の状態だ。
沙羅は人より華奢なだけに、体温を奪われるのも早いだろう。
そのぶん体力の消耗も激しいはずだ。急がなければ。
迂曲を繰り返す急な斜面を無一郎達は黙々と下っていく。
生い茂る木々の夜露に濡れた枝葉が、道を覆うように伸びている。
慎重に辺りを観察しながら歩いていると、幸いな事に道の脇に小さな
無一郎達は今夜はそこで夜を明かす事にした。
「まずは濡れた服を乾かそう」
そう言って無一郎が上衣を脱ぐと、鍛え抜かれた体躯が露わになる。
その瞬間、沙羅が息を詰めたのが、気配で伝わった。
そちらへ視線を向ければ、沙羅は無一郎から目を逸らすように俯いていた。
白い頬がほんのりとした朱色に火照っている。
ーーそんな反応をされると、理性が揺らぐ。
無一郎もまた沙羅から視線を外すと、脱いだ隊服の上衣を岩肌に広げた。
「……君も脱ぎなよ。そのままだと体温が下がって命に関わるから」
無一郎の言葉に従うように、沙羅がもぞもぞと隊服を脱ぎ始める。
そうして無一郎と同じように脱いだ隊服を岩肌に広げた。
今度は無一郎が息を呑む番だった。
白いベビードールにドロワーズ姿の沙羅。至極無防備な姿に恥じらった表情が、何とも色っぽい。
「…………。座ろう」
「はい」
抱きしめたい衝動をグッと堪えて、無一郎はその場へ腰を降ろした。
か細い声で返事をして、沙羅もまた隣へ腰掛ける。
隣から微かに伝わる体温が愛おしくて、鼓動が高鳴るのが自分でもわかった。