第九話 華鬼と鏡屋敷
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いよいよ屋敷の中へ踏み込むと、上がり框に若い女性が一人、静かに佇んでいた。
腰の下までまっすぐに流れる艷やかな黒髪に、息を呑むほどの美貌、血のように赫い打ち掛け。噂通りの出で立ち。
間違いない、彼女が鬼だ。
「ごきげんよう。ようこそ、我が屋敷へ」
鬼は芝居がかった抑揚で告げると、優雅にお辞儀をしてみせた。
その視線が此方を向く。鬼は他の二人には目もくれず、沙羅だけを凝視する。
舐めるような視線が肌の表面を這って、全身が粟立った。
「貴女ーーとても綺麗ね」
気がつくと、鬼が目の前に迫っていた。速い。
白魚のような手が、沙羅の頬にふわりと触れる。
「滑らかで瑞々しい白い肌。透き通った蒼い瞳がとっても素敵」
手が身体の表面を這い回り、脚に触れる。
「ほっそりとして長い脚……形も綺麗ね」
無一郎の刀が鬼へ向かって一閃する。
鬼はひらりとそれを躱した。
「本来男に興味はないけれど」
薄い紅色の瞳が、無一郎を見据えて笑みの形に細められる。
「貴方の髪ーーとても綺麗ね。気に入ったわ」
鬼が両手を広げると、その背後に無数の鏡が顕現した。
「あなた達を私の一部にしてあげる」
鬼が囁いた瞬間、無数の鏡が沙羅達を目掛けて飛来した。
素早く身を躱す沙羅の目に飛び込んだ光景。
「師範!!」
鏡に呑まれていく無一郎の姿。すかさずその手を掴み、必死に引き戻そうとする沙羅に、無一郎が口を開いた。
「沙羅、落ち着け。大丈夫だから」
その声音は思いのほか冷静で。
「君の仮説が正しいのなら攫われた女性達を救う鍵は、この鏡の裏にあると思う」
「師範……!」
「僕は君を信じる。だからーー」
くっきりとした二重瞼に収まる淡い碧色の瞳が、まっすぐに沙羅を捉えた。
「君も僕を信じろ」
力強い声音。沙羅は震える手をそっと離した。
「ご武運を」
胸が張り裂けそうな思いを心の奥に押し込めて、沙羅がそう言うと、無一郎は此方を安心させるように淡く微笑う。
その身体はゆっくり、ゆっくりと鏡の中へと溶け込むように飲み込まれていった。
「まずはあの子から。私、ご馳走は後に取っておく主義なの。
いずれ貴女も迎えに来るわ。必ず……必ずね」
くすくすと微笑いながら、鬼もまた鏡の中へと呑まれて消えていった。
残された沙羅は、密かにぎりっと奥歯を噛み締めた。