第九話 華鬼と鏡屋敷
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敷地内へ足を踏み入れると、花に埋もれるようにして一人の隊士が倒れていた。
すぐさま駆け寄って容体を確認したが、隊士は既に事切れており、沙羅は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「川島……!!」
「お知り合いですか?」
「ああ。こいつは一昨日派遣されたんだ」
「そうですか」
再度遺体へ視線を移す。まだ微かに体温が残っている事から、遺体は死後そう時間は経っていないのだろう。
蒼白な顔。所々見られる切り傷は、傷口が赤紫色に腫れ上がっている。
死因は恐らく毒によるもの。
そして、傷口から流れ出ていた血液を観察して息を呑んだ。
血液が一部ゼリー状に固まっていたのだ。
「これは……」
播種性血管内凝固。この症状を引き起こしている事から、この屋敷に棲む鬼は、恐らく血管系を破壊する猛毒を保有していると考えられる。
ひとたび毒が体内に入れば、血液中の凝固作用を持つプロトロンビンを活性化させ、あっという間に血液をゼリー状に変えてしまう。
その作用によって身体中の血液凝固因子は枯渇してしまうため、ゼリー状にならなかった残りの血液は逆に絶対に凝固しなくなる。
そうなれば血管系は完全に崩壊し、出血が止まらない状態になる。
その結果、血圧低下、体内出血、腎機能障害、多臓器不全などを引き起こし、絶命する。
仮に一命を取りとめたとしても、手足の切断や高度の後遺症が残るだろう。
用意していた抗毒血清が、効くかどうかも危うい。
沙羅はぎりっと奥歯を噛み締めた。
「師範、最上さん。これを」
沙羅は持参していた抗毒血清を二人へ手渡した。
「抗毒血清です。この屋敷の鬼は、極めて強力な毒を保有しています。
毒を受けてしまえば、恐らく数時間で死に至る。この抗毒血清も効くかどうか。
まずは毒を受けないよう細心の注意を払って下さい」
「わかった」
「…………」
冷静な声で応える無一郎に対し、最上は声も出ない様子で固まっている。
「怖いですか?」
沙羅が静かに問うと、最上ははっとした様子で。
「あ、いや、それもあるがそうじゃなくて」
審らかな事前調査といい、先程や今の見解といい、対応といい。
「柱の継子ってのは優秀なんだなと思ってさ……」
これに対し沙羅はぽかんと怪訝そうな顔をしたので、最上は慌てて、
「あっ……いや、何でもない。忘れてくれ」
そう言うと、沙羅は再び表情を引き締めた。
「行きましょう」