第九話 華鬼と鏡屋敷
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ーー1、幽世のとばぐち
件の屋敷での奇妙な噂は鬼殺隊の耳にも入っていた。
数名の鬼殺隊士が派遣されたが、誰ひとりとして帰って来た者はないという。
そこでついに柱が動く事となった。選ばれたのは、霞柱 時透無一郎だ。
共に任務にあたるのは有須沙羅、そしてもう一人。
名を
「任務にあたりこの屋敷についての情報をお話しておきます」
屋敷の立つ敷地の手前で、沙羅は静かに切り出した。
「現在から五年ほど前この屋敷には一人の若い女性が数名の使用人とともに住んでいたそうです。
彼女は使用人にも優しく、おっとりと朗らかな性格だったと聞きます。
ただ自らの美貌に自信を持っており、美しくある事に並々ならぬ執着を持つ一面もあったとか。
そんな折、事件は起こりました。ある夜彼女が鏡に映る自身の美貌をよく見ようと蝋燭の灯りを近付け鏡を覗き込んだ時、蝋燭の炎が髪に燃え移り、彼女は大火傷を負ってしまった。
結果、自慢の美貌は無残に焼け爛れ、彼女は深く絶望し嘆き悲しんだ。
それからというもの人里では彼女の姿を見掛けなくなり、自害したのではないかと噂が広まりました。
屋敷では夜ごと女性のすすり泣く声が聞こえていたとかで、ここは幽霊屋敷として暫く語り継がれる事となりました。
しかし、ある時期を境にその噂は一変した。女性のすすり泣く声が途絶えたそうです。
それからです、行方不明者が後をたたなくなったのは。
奇妙な点は、行方不明になるのは男性のみで、派遣された鬼殺隊士を含め八名。女性は戻ってきたと聞きます。
しかしーー」
沙羅はそこでいったん言葉を区切った。
憂うような表情で半ば瞳を伏せる。
「ご家族の話では、戻ってきた女性達は皆どこか言いしれぬ違和感があったそうです」
「違和感?」
無一郎が聞き返すと、沙羅がはい、と短く応える。
「どこが、とははっきりと形容できないそうですが、長年ともに過ごしてきたご家族にとってその女性達には違和感があると断言できるそうです。
そこでその女性達に直接お会いしてきたのですが、一つ奇妙な点を見つけました」
「というと?」
「その女性達は皆、利き手が反転していたようです」
「よく気づいたね」
「左利きの女性が多かったので、おかしいと思ったんです」
「成程」
会話を聴きながら最上は思う。いやいや、利き手なんてぱっと見で判んねぇだろ。
どんな観察力だよ、この人。
「恐らく女性達は偽物ではないかと。噂ではこの屋敷には夥しい数の鏡があると聞きます。
以上の事から私は一つの仮説を立てました」
「聞かせて」
「男性は失踪。女性は偽物を戻された事から、鬼は女性に何らかの目的を見出し、それを隠す為に偽物を用意した。
そしてこの屋敷に棲む鬼は、鏡に関連した血鬼術を使うのではないかと思っています。
以上がこの屋敷の事前情報と、私の見解です。如何でしょうか?」
そこまで聴き終えた無一郎が、淡く微笑んだ。
「凄いね、沙羅。よく調べてる。まるで本物の探偵みたいだ。
蝶屋敷での事といい、君に向いてるのかもしれないね」
無一郎の言葉に沙羅は暫し考え込む仕草を見せた。
「……有り難うございます」
こうして沙羅の情報と仮説をもとに、一行は気を引き締めて屋敷へと足を踏み込んだ。