第八話 無限列車
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二日前の夜、出掛けた沙羅が深手をおって、蝶屋敷へ運び込まれたと報告が入っている。
すぐにでも見舞いに行きたかったのだが、柱として多忙を極める無一郎は、すぐに動けなかった。
何とか忙しい合間を縫って、蝶屋敷へ駆けつけたのだ。
「沙羅、入るよ」
扉の前で一声掛けてから、引き戸を開けた。だが、そこに沙羅の姿はなかった。
一体、何処にーー
その姿を求めて蝶屋敷の中を歩き回っていると、耳慣れた声を無一郎の耳が捉えた。
「もぉ、三人とも。ほんとう可笑しいんだから」
目尻に浮かんだ涙を拭いながら沙羅が言うと。
「そうか?いつも通りだぞ」
いつもの調子で炭治郎。
「君が笑ってくれるなら、何でもいいよ」
無駄にキリッと決め顔で善逸。
「腹減った」
一人関係ない顔をして伊之助。
そんな三人の様子にまた沙羅が笑う。
そこには平生の大人びた彼女の姿はなくて、年相応の無邪気な少女がいるだけでーー
「…………」
今まで沙羅は、一度たりとも無一郎の前で声を立てて笑った事などなかった。
それは明確に線引きされていた事を意味しているのではないか。
そう考え至った時、無一郎の胸の内で何かが爆ぜた感覚がした。
ガラリ、と勢いよく引き戸を開くと、室内の視線がいっせいに此方を向いた。
無一郎は構わず沙羅の前までズカズカと歩を進めると、その手を強く掴んだ。
その痛みに沙羅が顔を顰めるが、構ってやる余裕もなくて、無一郎は沙羅の手を引っ張って病室を後にした。
背後で三人が何かを言っているようだっが、黙殺した。
一刻も早く沙羅を誰の目にも触れない場所へ連れて行きたかった。
「師範、痛いです。手を……」
“離して”なんて言わせない。
それは衝動だった。平生の冷徹な柱の仮面は罅割れ、子供じみた独占欲が顔を出す。
きつく沙羅を腕の中へ閉じ込める。
予想に反して沙羅は抵抗しなかった。
「…………。師範」
「何」
「どうしましたか?」
「…………」
「何があったんです?」
沙羅は冷静な声音で問うが、その手は優しく無一郎の背中を撫でている。
「……君を見ていると」
そこでいったん言葉を区切り、
「時々、気が狂いそうになる」
ぎゅうっと両腕に力を込めた。
苦しいだろうに沙羅は、無一郎の腕の中で微動だにしない。
此方が落ち着きを取り戻すまで、根気強くずっと、背を撫で続けてくれた。
暫くはそのまま。
はぁ、と息をつく無一郎の肩に手を置いて、離れるよう促すと、沙羅は無一郎の瞳をまっすぐに見つめて言った。
「貴方の想いに応える事は出来ません」
この言葉を何度聞いただろう。
昏い瞳で俯く無一郎に、沙羅は言葉を続けた。
「でも」
無一郎が顔を上げると、沙羅は言った。
「鬼舞辻無惨と戦うその日まで、私の運命は貴方と共にあります」
蒼い瞳は強い意志をそこに宿していた。
「私の命は貴方のものです」
その言葉に嘘はないと、その瞳が物語っていた。
予想だにしなかったその言葉に無一郎は暫しぽかんとしていたが、やがてほんのり苦笑した。
「凄い殺し文句言うなぁ」
そこまで無一郎の運命に寄り添いながらも、想いには応えられないと彼女は言う。
きっとそれは、彼女が心の内に抱えている“何か”のせいなのだろう。
待つ事でいつか話してもらえるのならば、いつまでも待とう。
だけど、きっとそうではないから。
彼女の心を、いつか。
他の誰でもない、僕が抉じ開けるんだ。
【大正コソコソ噂話】
沙羅の担当の刀鍛冶は極めて珍しい女性の刀鍛冶です。
極めて脳筋で、身体もムキムキ。美しさは筋繊維と信じてやまないので、脂肪も筋肉も付きづらい沙羅を憐れんでいます。
会えば何かと食べ物(蛋白質系)を与えたがり、尚且つ筋トレを強要してくるちょっと困った人です。
名前は月見里 梨佳(やまなし りか)と可愛らしく、沙羅も含め周囲から“梨佳ちゃん”と呼ばれています。