第八話 無限列車
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猗窩座を退けた……どうしようもない安堵感からその場へへたり込む沙羅。
はーーと深く息を吐き出して、煉獄の方へと視線を移す。
「ご無事ですか、炎柱様」
「煉獄だ」
「え?」
「さっき呼んだだろう。それでいい。仲間だろう」
温かく微笑む煉獄の鳩尾に傷はない。胸が熱くなり、目頭が少しだけ痺れた。
「はい……」
伊之助が沙羅に駆け寄る。
「よくやった、里美!大丈夫か!!」
相変わらず“さ”しか合ってないが、それが伊之助らしく思えて沙羅は微かに笑った。
「大丈夫。伊之助くんにお願いがあるの」
「何だ!?」
「私達が最初にいた車両に私の鞄があるわ。それを持って来てほしいの」
「わかった!」
「有り難う」
走り去る伊之助の背を眺めて、沙羅は深く息をつく。
まだ終わりじゃない。私には、まだやるべき事がある。
「いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!!
生身の人間がだ!!傷だって簡単には塞がらない!!失った手足が戻ることもない!!
逃げるな馬鹿野郎!!馬鹿野郎!!卑怯者!!お前なんかより煉獄さんの方がずっと凄いんだ!!強いんだ!!
煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!!戦い抜いた!!守り抜いた!!
お前の負けだ!!煉獄さんの勝ちだ!!」
叫び、泣き崩れる炭治郎の姿に、煉獄はふっと優しい笑みを零した。
「もうそんなに叫ぶんじゃない。腕の傷が開く。君も軽傷じゃないんだ。
竈門少年が死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ」
ぐしゃぐしゃに泣き腫らした顔で振り返る炭治郎に、煉獄は優しく語り掛ける。
「こっちにおいで。最後に少し話をしよう」
最後。煉獄はそう言うが、沙羅は終わらせるつもりなどない。
伊之助が持ってきた鞄を胸の前で抱き締めて、機会を待った。
炭治郎との会話を終えた煉獄が、意識を失う。
禰󠄀豆子の入った箱を背負った善逸に、煉獄の話を聞かされる。
泣きじゃくる炭治郎の肩に、沙羅はそっと手を置いた。
「まだ終わりではないわ。その人は死なせない」
縋るように見上げてくる炭治郎の瞳をまっすぐに見返して、沙羅は静かに言った。
「信じて」
頷く炭治郎達の手を借りて、煉獄をその場へ横たえた。
まずは止血だ。清潔なガーゼと包帯で、丁寧に止血をしていく。
内臓を損傷したと思われるため、折れた肋骨の応急処置はできない。
腹部を圧迫しないよう衣服を緩め、折れた肋骨が肺に刺さらないよう慎重に身体を横向きにさせ、膝を軽く曲げた体勢にさせる。
出血性ショック等を防ぐため持参していた薄手の毛布で保温も心掛ける。
注意すべきは嘔吐、呼吸不全、チアノーゼ、冷や汗、虚脱。
それらの症状に気を配りながら、処置を進めた。
「私にできるのはここまで」
あとは煉獄の生存能力に賭けるしかない。
「炭治郎くん達の怪我も見せて」
「沙羅、もういい。君も重症なんだ。休むべきだ」
「私は大丈夫」
こんな時のためにしのぶのもとで医療を学んだのだ。
腹部の怪我に軽く止血を施し、沙羅は懸命に人々の救護へあたった。
そして運転手の怪我を診ようとした時、伊之助がすかさず。
「ソイツ助けなくていいと思う!!」
とか言い出すので、
「ダメだよ」
炭治郎と沙羅の突っ込みが被るのだった。