第八話 無限列車
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ーー遠く風鈴の音が聞こえる。
脳裏に浮かぶのは、それを静かに見つめる母の姿。
長い黒髪を片方の肩へ流し、緩く結った髪型。きりっとした切れ長の瞳の美しい女性だった。
重い病を患っていた。
「杏寿郎」
「はい、母上」
名を呼ばれ、幼い煉獄はすぐさま返事をした。
母は此方をまっすぐに見つめて問うた。
「よく考えるのです。今から母が訊くことを。なぜ自分が人よりも強く生まれたのか分かりますか?」
母の問い掛けに暫く考え込むが、答えが見つからず、
「わかりません!」
そう答えるしかなかった。
そんな煉獄に母は言った。
「弱き人を助けるためです。生まれついて人より多くの才能に恵まれた者は、その力を世のため人のために使わねばなりません。
天から賜りし力で人を傷つけること私服を肥やすことは許されません。
弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です。責任を持って果たさなければならない使命なのです。
決して忘れることなきように」
その言葉は煉獄の心深くに染み込んだ。
「はい!!」
母が煉獄に向かい、両手を差し出す。
戸惑いつつも、おずおずとその腕に収まる煉獄を、母はそっと抱き締めた。
「私はもう長くは生きられません。強く優しい子の母になれて幸せでした」
切れ長の瞳から涙が伝う。
「あとは頼みます」
炭治郎達が見守る中、黄塵が晴れる。
炭治郎が目にしたものはーー
腕を灼き斬られた猗窩座と、猗窩座の胴に刃を突き立てる煉獄の姿。
沙羅の赫刀により打ち出された弾幕に灼き斬られた腕は、簡単には再生しない。
「この、小娘……!!」
猗窩座の額に青筋が浮かぶ。
刹那、ギリッと刀の柄を強く握りしめる煉獄。
次の瞬間、猗窩座の頸に刃が突き立てられた。
猗窩座の頸は硬い。簡単には斬れない。それでも、刃へ力を込める。
母の言葉が煉獄の心を燃やす。背中を押す。
じわじわと再生しつつある腕を、沙羅が刃で押さえ込んだ。
「煉獄さん、斬って!!」
雄叫びとともに煉獄の刃が頸へ押し込まれる。
苦し紛れに拳を打ち出す猗窩座。だが、止められる。
刀を持っていない方の手で、猗窩座の腕を掴んだのだ。
微かに陽の光が射す。
山際を僅かに照らす陽光を猗窩座は視界の端に捉えた。
猗窩座は焦る。
早く殺してこの場を去らなければ。
しかし、煉獄は捕らえた腕を離さない。沙羅もまた刀に渾身の力を込める。
「逃さない!!」
煉獄と沙羅の声が重なる。
炭治郎が動く。煉獄に何と言われようと、ここでやらなければ……!!
斬らなければ!!鬼の頸を……早く!!
山際がいっそう明るくなる。猗窩座は焦る。
逃げなければと藻掻くが、煉獄と沙羅が猗窩座を離さない。
「オオォォオオオオ!!」
猗窩座の凄まじい咆哮に、それぞれの鼓膜が悲鳴を上げる。
しかし、それでも。
絶対に離さん、お前の頸を斬り落とすまでは!!!
「退けぇぇぇ!!」
猗窩座の叫びも虚しく、煉獄の刃が更に頸へ喰い込む。
「伊之助動けーーっ!!!煉獄さんのために動けーーっ!!!」
炭治郎の叫びに背中を押され、伊之助が疾走る。
ーー獣の呼吸 壱の牙 穿ち抜き……
次の瞬間、猗窩座は自らの腕を引き千切った。
飛び上がった風圧に伊之助がふっ飛ばされる。
猗窩座の表情は筆舌に尽くしがたいほどに壮絶だった。
そこに浮かぶのは、強い怒りと悔恨と屈辱。
着地した猗窩座の顔に薄く陽光が射す。
早く陽光の陰になる所へ……!!
雑木林の中へ飛び込む。
すかさず追いかけ、炭治郎は自らの刀を投擲した。
猗窩座の胸を炭治郎の刀が貫く。
「逃げるな卑怯者!!逃げるなァ!!!」