第八話 無限列車
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煉獄は沙羅をそっと地面へ降ろし、刀を構えた。
沙羅はそのまま瞳を伏せる。
ーー機会を窺うために。
怪我による失血で身動きの取れない炭治郎は、それでも自由になる範囲で首を反らして鬼を視界に入れた。
短く刈られた赤紫色の髪、滾る闘志を宿して静かに、だがギラギラと光る瞳。鍛え抜かれた鋼のような肉体には、鬼の紋様が刻まれている。
上弦の……参?どうして今ここに……。
戸惑う炭治郎の姿を視界に捉え、上弦が目を細める。
刹那、上弦の身体は虚空にあった。
凄まじい闘気を帯びた拳が、炭治郎へ迫る。
即座に煉獄は反応した。
ーー炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天ーー
猛炎を纏ったような刃の軌跡が円を描き、上弦の拳を切り裂いた。
上弦は即座に間合いを取るが、その顔には動揺の欠片もなく、斬られた腕もすぐさま治癒した。
僅かに手に残る血を舐め取りながら、煉獄へ視線を向ける。
「いい刀だ」
再生が速い。この圧迫感と凄まじい鬼気。これが上弦。
「なぜ手負いの者から狙うのか理解できない」
上弦の圧倒的な威圧感を受けながらも、煉獄は冷静に、毅然とした態度で問う。
「話の邪魔になるかと思った。俺とお前の」
上弦は悠然と答える。
「俺と君が何の話をする?初対面だが、俺は既に君の事が嫌いだ」
煉獄もまた毅然と答える。
「そうか。俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫酸が走る」
上弦は目を細めて微笑う。その目に、声音に、態度に、彼のいう“弱者”への侮蔑がありありと顕れていた。
「俺と君とでは物事の価値基準が違うようだ」
はっきりと言い放つ煉獄。しかし上弦は意に介した風もなく、少し芝居がかった仕草で言った。
「そうか。では素晴らしい提案をしよう。お前も鬼にならないか?」
これに対し煉獄は、即座に言い切る。
「ならない」
しかし上弦はまるで聞こえていないかのように、
「見れば解る。お前の強さ。柱だな?その闘気、練り上げられている。
煉獄から立ち昇る炎のような闘気を見据え、獲物を見つけた獣のようにほくそ笑みながら鋭く目を細める。
「俺は炎柱 煉獄杏寿郎だ」
静かに名乗りを上げる煉獄。
「俺は猗窩座」
上弦もまたこれに応える。
「杏寿郎、なぜお前が
人間だからだ。老いるからだ。死ぬからだ」
静かに猗窩座を睨む煉獄へ、猗窩座が手を差し出す。
「鬼になろう、杏寿郎。そうすれば百年でも二百年でも鍛錬し続けられる。強くなれる」
滔々と語る猗窩座を前に、怪我をおして炭治郎は必死に身を起こす。
今まで会った鬼の中で、猗窩座が一番鬼舞辻の匂いが強い。
加勢しなければ。
「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ」
猗窩座を見据えたまま、煉獄が口を開いた。
「老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく、尊いのだ。
強さというものは、肉体に対してのみ使う言葉ではない。
この少年は弱くない。侮辱するな」
煉獄の言葉には一つ一つ、猗窩座に対する静かな怒りが燃えていた。
「何度でも言おう。君と俺とでは価値基準が違う。
俺は如何なる理由があろうとも鬼にならない」
まっすぐに猗窩座を見据えて、煉獄は言い放った。
「そうか」
静かに、猗窩座は言った。細めた瞳に殺意が宿る。
バキ、踏みしめた大地が罅割れる。
ーー術式展開 破壊殺・羅針ーー
猗窩座を中心に、禍々しく輝く雪の結晶が確かに見えた。
完全に戦闘体勢を取った猗窩座が言った。
「鬼にならないなら殺す」
ーーと。