第八話 無限列車
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気がつくと、景色が真っ赤だった。
床も、壁も、天井も。何もかもが赤い。
ふと目をやると、ベットへ凭れ掛かり手首を何重にも掻き切ってこと切れている萌々の姿。
その傍らに寄り添って、絵梨花が啜り泣いている。
泣き腫らして真っ赤に染まった瞳が此方を向いた。
「萌々姉ちゃん……ここ最近様子がおかしかったの。でも夕莉子姉ちゃんは気づきもしなかったんだよね?」
沙羅は瞳を伏せた。本当にその通りで、返す言葉もなかったから。
「夕莉子姉ちゃんは美人で頭がよくて、一人で何でもできるから、私達のことなんて、一欠片も関心なかったもんね……!」
……その通りだ。この頃の沙羅は、いや夕莉子は、自分の事も他人の事も、言ってしまえば世の中の事全てがどうでもよかった。
所詮は作りものでバカバカしいとは思いながらも何となく続きが気になって関心を引いていたのは、漫画だの小説だのそんなもので。
失うまで気づかなかった。
家族だから好きも嫌いもないと思っていた。
自分がどれほど恵まれて、幸せかなんて、考えた事もなかったのだ。
「あんたが死ねばよかったのに、なんで萌々が」
萌々の遺体に追い縋り、泣きながら母が言った。
「お前は昔から頭がよかったから、俺達を見下していたんだろう。それでも俺達はお前のために高い学費を工面して、大学にまで通わせてやったのに……何のために精神科医になった。妹一人救えずに!」
此方を睨んで父が吐き捨てるように詰った。
「……夕莉子姉ちゃんは昔から私達なんて歯牙にもかけなかったよね」
血塗れのまま起き上がって萌々が言った。
いつの間にか手にしていた包丁で、斬り掛かってくる。
「何度も助けてって思ってたのに!気づいてもくれなかった!」
「……そうだね」
俯いたまま沙羅は呟く。
「私は卑怯だった。怠惰だった。傷つくのが怖くて、感心のないふりをして逃げているだけだった。……だけど!」
襲い来る刃を刀で受け止める。
「だからこそ、今度は違う生き方がしてみたい!」
「今さら遅いよ!」
萌々が包丁を振り抜く。スカートの裾が切れて、白い腿から一筋の血が伝う。
「それでも、努力するチャンスが与えられるなら、もう一度やり直してみたいのよ!!」
包丁を弾くと、萌々が体勢を崩した。
沙羅はその隙をついて自らの頸に刃をあてた。
「だからごめん……先へ進むね」
涙が頬を伝う。きっとこれが最後だからと家族の姿を目に焼き付けて。
沙羅は家族へ微笑みを残し、自らの頸を断つべく渾身の力を込めて刃を押し込んだ。