第八話 無限列車
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ーー1、思わぬ夢
木造建築の駅構内は、学生やいかにも富裕層といった洒落た格好の人々が、まばらに往来している。
切符を購入し改札を通ると、煉瓦造りの石畳が広がるホームに目的の汽車が停まっていた。
先頭に“無限”の文字を掲げた不気味に黒光りする巨大な鉄の塊が、ひっきりなしに蒸気を噴き上げる。
これから此処で起こる惨劇を知っている沙羅の目にそれは、歪に蠢いて見えた。
汽車に潜む鬼の鼓動が、聞こえてくるような気さえする。
沙羅はゆっくり瞳を伏せると深く息を吐き出した。
此処へ来た目的は、二つだ。
一つ、黒死牟戦へ向けて上弦の鬼との戦闘経験値を得る。
二つ、煉獄の死を阻止し、戦力の削減を防ぐ。
できる、できないは問題ではない。やるんだ。
ーー時透無一郎の運命を変えるために。
細長い車両の中は、黄味がかった電灯の温かみのある光と、規則的に過ぎるこもった振動に満たされている。
乱れなのない足取りで乗客を横目に確認しながら、煉獄を探した。
程なくして彼は見つかった。
なるほど、柱を務めるだけの事はある。
こんな大勢の乗客の中で尚、自然と目を引く。一般の男性とは格が違うオーラがあるのだ。
彫りの深い精悍な顔立ち。燃え盛る炎を思わせる、無造作に毛先が跳ねた赤みがかった
黙っていても溌剌とした空気を纏っている。
「こんばんは、炎柱様」
声を掛けると、煉獄の顔が此方を向いた。
以前会った時も思ったが、やはり独特な目つきをしている。
視線が何処を向いているのか分かりづらい双眸。
それは野生の獣を思わせた。
野生の生物は、視線の向きが分かりづらい眼球の構造をしている。
一説によれば、それは視線の先を分かりづらくする事で、敵や獲物に次の動作を予測させないための構造なのだとか。
「時透の継子か!有須といったな!」
「はい」
明瞭で快活な話し方は相変わらずのようだ。
沙羅は微かに笑みを零した。
「任務だろうか!」
「いいえ。個人的な用事です」
「そうか。だが気をつけた方がいい。この汽車には鬼が出る!」
「承知しています」
「そうか!ならばいいだろう!夕飯はもう食べただろうか?」
夕飯?唐突だな……と思いつつ。
「いいえ。まだです」
「うむ!ならば弁当をご馳走しよう!」
「お気遣い頂いて有り難うございます。……ですが、今夜は食欲がないのでお気持ちだけでーー」
「牛鍋弁当でいいだろうか!」
「…………」
「一緒に食べよう!そこに座るといい!」
「聞いて下さい。どうか……」
やっぱりこの人、人の話聴かないな……内心げんなりとする沙羅を見て、煉獄は静かに自身の隣を示した。
「座りなさい」
それまでとは打って変わって穏やかな声音で、諭すように言う。
沙羅が腰掛けるのを見届けると、煉獄が口を開く。
「君は食が細いと時透から聞いている。これからの戦いに備えるためにも食事は摂ったほうがいい」
睡眠はとったほうがいい。食事はしたほうがいい。
……こんな基本的な事を諭されてしまう自分は、やはりまだ未熟なのだろう。
俯けていた顔を上げて、沙羅は敬意を込めて煉獄へ礼を述べた。
「分かりました。有り難うございます」
そんな沙羅を見て、煉獄は安心したように笑みを浮かべた。