第一話 誓約
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はっきりと告げると、無一郎は相変わらず感情の読めない顔つきで此方を見詰めて。
「僕の言う事が聞けないの?」
口調は抑揚が少ないのに、その言葉には不思議と威圧感があった。
しかし沙羅は臆する事なく、
「貴方のご指摘は正しい。目の前の敵を見よという点に於いては改善します。ただ修行のやり方については改善出来かねます」
ごく冷静に自らの意志を伝える。
これに対し無一郎は、
「休憩」
「え」
「休憩って言ったんだよ。暫く頭を冷やしなよ」
素っ気なくそう言い置いて、稽古場を出て行ってしまった。
道場を後にした無一郎は縁側にそっと腰をおろし、空を見上げた。
有須 沙羅……なぜ彼女はあんなにも頑ななのだろう?
まるで因縁の敵でもいるかのようなーー
まぁ、どうでもいいか。
早々に思考を切り替えて、傍に寄ってきた銀子を撫でてやりながら暫くは空をぼうっと眺めて過ごした。
休憩を終えて無一郎が戻ると、沙羅は既に稽古場にいた。
というより、ずっとその場に留まっていた、という方が正しいかもしれない。
彼女は竹刀ではなく真剣を振るっていた。
………あれが宵の呼吸か。
極静かな美しい剣技だった。刃が空を切る音すらしない。
光が、鋭く、素早く、そして力強く虚空を切り裂いていた。
暫く黙って様子を見守っていると、沙羅は此方に気付いて刀を納めた。
「本当に休憩取らなかったの」
「私には必要ないと最初に申し上げました」
これは……良くない傾向だ。そう思った。
刀を竹刀に持ち替えた彼女は早速といった様子で竹刀を青眼に構え、
「お願いします」
静かに言い放つ。だが、その瞳にはぎらぎらとした尋常でない闘志が宿っていた。
鍛練に対する意気込みも、熱意も充分に伝わった。根性も認めよう。
だが……このままではあまりにもーー危うい。
無一郎は次々と撃ち出される沙羅の攻撃をいなしながら、師として彼女の道を修正する方法を無意識に模索していた。