第七話 蝶屋敷
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病室を訪れた沙羅を見るなり真島は言った。
「余計な真似をしてくれたな」
苦笑混じりに、穏やかさすら感じさせる声音で。
「全く……、あんたには敵わねぇよ。俺は本気で死ぬつもりだったんだけどな」
真島の言葉を黙して聴いていた沙羅が、ふいに口を開いた。
「昔……私にも妹がいました」
そうだったのかという思いと、急に何の話だという思いが交錯して、真島は面食らった顔をした。
沙羅は構わず続けた。
「妹は幼い頃から好きな人と結婚をして、子供を持ちたいという願望が強かった。
そんな妹が成長して学校へ通い始めた頃、妹に恋人が出来ました」
淡々と語る沙羅の顔には一見すると何の感情も浮かんでおらず、声音もごく静かでーーだが、その語調は不自然なほどに平板で、半ば伏せられた睫毛の下で蒼い瞳が悲痛に揺らいでいるように真島には見えた。
戸惑いながらも真島は黙って沙羅の話に耳を傾ける事にした。
この人の事だ、きっと無意味な話はしないだろう。
「幸せそうでした……でも」
そこでいったん言葉を区切って、沙羅が瞳を伏せる。
声がほんの微かに震えた気がした。
「それは長くは続かなかった。彼は浮気性で、妹以外にも複数の女性と交流があったんです」
「最低の野郎だな」
すかさず真島が言うと、沙羅は苦笑混じりに頷いた。
「勿論妹は自分だけを見てほしいと彼に懇願した。しかし彼はそれを聞き入れる事はなかった。
そうして彼の周りの女性から、妹は嫌がらせを受けるようになっていったんです。
無視をされたり、嫌味を言われたり、連日届く手紙に綴られた心ない言葉の数々に、妹の心は疲弊していった。
そうしてーー妹は自ら最悪の決断を下しました」
「おい、それってまさか……」
真島は自らの顔から血の気が引くのを感じた。
そんな真島を沙羅はまっすぐに見つめて頷く。
「妹が自ら命を絶った後、母の嘆きようはとても見ていられませんでした。
我が子に先立たれた母親の悲しみは、計り知れない」
ここで漸く真島にも話が見えた。
要するに真島も母親を悲しませるなと言いたいのだろう。
「真島さん……貴方は貴方のお母様に樹里さんが亡くなった事は伝えていたけれど、初夏さんに殺害された事は伏せていましたね」
「ああ、そうだよ」
「事情を知らされないままそれでも貴方のお母様は、貴方に協力してくれた」
「…………」
「聴き込みの時に少しだけお会いしましたが、優しい面差しが、樹里さんとよく似ていました」
「……そうだな」
ゆっくりと瞳を伏せる真島を見つめたまま沙羅はごく静かな声で言った。
「そんな人を二度も絶望させる事のないよう願います」
その言葉は確かな重みを伴って真島の心に染み込んだ。