第七話 蝶屋敷
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「分かってる……分かってた。あたし……あたしはいつだって、ひー君にとっては樹里姉の“ついで”なんだって。
でも……それでもあたし、ひー君のこと……」
「…………」
「……だからあたし、樹里姉が許せなかった。こんなにもひー君に愛されて……尽くしてもらってたくせに、あたし達の知らない人と婚約して……ひー君を寂しくさせて。だから、あたし……」
「もう黙れ」
真島の声に冷たさはなく、労りすら感じられた。
震える声音と眉間に深く刻まれた皺が、真島の葛藤を物語っているかのようだった。
初夏はゆっくりと瞼をおろす。伏せた睫毛の隙間から、涙が零れ落ちた。
「急いで胃洗浄と呼吸の確保を!」
有須沙羅が呆けている神崎アオイ達へ指示を出す。
「無駄だぜ?」
此方の指摘に有須沙羅が振り向いた。
そんな彼女へ真島はニヤリと笑ってみせた。
「俺達が摂取したのはフグ毒として有名なあのテトロドトキシンの抽出物だ。致死量をはるかに超える、な」
「!」
「テトロドトキシンに解毒剤は存在しない。どんな処置も無意味だろうぜ」
「………っ、トリカブトを」
有須沙羅がぼそりと呟いた。うまく聞き取れず、神崎アオイが何ですか、と聞き返す。
「アコニチンをこの二人に投与して下さい!早く!!」
勢いに押され、神崎アオイをはじめなほ、すみ、きよも弾かれたように駆け出す。
「!、させるか……っ」
すかさず真島が抵抗を試みようと動いた瞬間、首筋に衝撃が走った。
「!?……な、」
霞柱 時透無一郎の手刀が、真島の首を捉えたのだ。
徐々に遠のく意識の中で、苦し紛れに真島は呟いた。
「随分……、危険な賭けに出たな。……有須サン……」
テトロドトキシンとアコニチン。これらの毒は、作用機序が正反対だ。
テトロドトキシンは神経細胞の電位依存性ナトリウムチャネルのイオン流入の抑制。逆にアコニチンは促進する。
これらの作用を拮抗させる事で、一時的に毒の効果を打ち消す事が可能なのだ。
だが、テトロドトキシンの方が先に代謝されるため、最終的にはアコニチンの毒性で命を落とす。
それでも、鬼舞辻無惨の毒をも解毒した胡蝶しのぶならば、あるいは……!
問題は、胡蝶しのぶが帰還するまで二人が保つかどうか。
仮に保ったとしても、解毒できる保証は何処にもない。
ーーそれはあまりにも危うい賭けだった。