第七話 蝶屋敷
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有須沙羅のまっすぐな視線を受け止めながら、真島はゆっくりと瞳を伏せた。
彼女の“仮説”には隙がない。さすがは霞柱の継子だけの事はある。
しかしーー
「証拠はあるのかい?」
此方の問いに対し、有須沙羅の瞳に憂いの翳が差す。
伏せた睫毛の下で蒼い瞳が揺らぐのを見て、真島は自身の負けを悟った。
なぜならそれは、先程初夏に自白を促し拒絶された時に見せた表情と酷似していたからだ。
「私が懇意にしている警察の方に協力を仰いでこの屋敷の音は常にマイクが拾っています。
音の状態を調べると音源までの距離が分かります。電話に無線電波が混入されたのはこの屋敷からそう遠くない場所です。
測定距離には誤差があるのでその範囲内。誤差がプラス・マイナス8フィート。ほぼ16尺5寸(5メートル)。
測定した場所から直径16尺5寸以内という事になります。
この蝶屋敷から16尺5寸以内にあるものといえば……」
この言葉に神崎アオイがあっと声を上げる。
「蝶屋敷の離れですね」
有須沙羅が頷く。
「現在離れを利用させて頂いているのは私と初夏さん……そして真島さん、貴方だけです」
真島はごくりと喉を鳴らした。
「お部屋を調べさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
有須沙羅のごく静かな声音を聞きながら、真島はついに観念したように苦笑しながら肩を竦めた。
「参ったよ……俺の負けだ」
そんな、と声を荒げようとした初夏を真島は手で制した。
「一つだけ聞かせてくれ」
「何でしょうか?」
「あんたは樹里の遺体を見ても必死に何かを調べていた。まるで刺殺じゃないと最初から分かってたみたいに。どうして気付いたんだい?」
此方の問いに有須沙羅は静かに答える。
「刃物の向きです」
この答えに真島は目を瞠った。
「樹里さんに刺さっていた包丁は、背骨と平行になるよう縦に刺さっていました。
それでは肋骨に阻まれて、心臓には到達しない。つまり致命傷にはなり得ない。
仮に出血多量により亡くなったのだとしても、その間誰にも助けを求めないのは不自然です」
「成程ね……」
真島はゆっくりと瞼をおろし、自著気味に微笑った。
「たいした洞察力だよ。俺の最大の誤算は、あんたの存在だ。
まさか初っ端から毒殺を見破られるとはね。
あんたの言った通りだよ。初夏の犯行を隠そうと画策した。
……けどな、一つだけ肝心な所が間違ってるぜ」
此方の指摘にしかし有須沙羅は、顔色一つ変えずに問うた。
「というと?」
真島は徐ろに初夏の方へと歩を進める。
「俺が初夏の犯行を隠そうとしたのは、初夏への情からじゃねぇ。
俺がこの手で地獄へ送り届けるためさ」
言うが早いか真島は初夏の後頭部へ手を回すと自らの方へと引き寄せて、噛み付くように口付けた。
次の瞬間、ごくりと二人の喉が鳴る。
「何を飲んだんです!?」
そこで漸く有須沙羅の顔色が変わった。
その様子を見て真島は満足げに口角を上げた。