第七話 蝶屋敷
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「テレビの不調はアンテナ回線の腐食のせいです。故意に腐食させた形跡が見られました。色ムラに関してはフレームを開けてみたら中に強力な磁石が仕込んでありました。
電話の雑音は無線電波のせいです。基本波の混入とイメージ混信が確認されています。
貴方はこうして様々な霊障をでっち上げたんです」
滔々と語る有須沙羅の表情からは何の感情も読み取れない。
初夏が以前、彼女を“機械仕掛けの絡繰みたい”と詰ったが、真島の瞳にも今はそのように映っていた。
「待ってよ!今までの霊障が全部作られたものというなら、死んだ樹里姉からの電話は!?あたし……っ、あたし聞いたの!あれは確かに樹里姉だった!どうやってそんなものでっち上げるっていうの!?」
この問に対しても、有須沙羅は眉一つ動かす事なく淡々と答えた。
「機械を通すと声の印象は少し変わります。私の知り合いは、よくその兄弟と間違われていました」
「それが何だっていうの!?」
「肉親の声は似ます。肉親といえば樹里さんの母親です。調べてみたところ案の定声は似ていました」
「まさかあれはおばさんだったとでも言うつもり!?あり得ない!」
「人間は先入観で捉えます。樹里さんの母親は貴女を“初夏ちゃん”、樹里さんは“初ちゃん”と呼ぶそうですね。
機械を通し、樹里さんと似た声質で“初ちゃん”と呼ばれれば、樹里さんとしか考えられなくなる」
「……っ、じゃあ、じゃあ……!、ラップ音は!?機械のトラブルは分かるとして、ラップ音なんて……あんなのどうやって作り出すっていうの!?」
狼狽しながらも真島のために懸命に言い募る初夏の姿は、いっそ健気ですらあった。
しかし有須沙羅の“仮説”には容赦がなかった。
「それは単純に家鳴りです」
「家鳴り……!?」
「はい。古い木造建築にはありがちな事です。建材が周囲の気温や湿度によって収縮する事で起こります。
平生では気にならない程度の音ですが、怪異が続き疑心暗鬼に陥る事で、聴覚も敏感に反応したのでしょう」
「…………」
初夏が黙ったのを確認すると、有須沙羅の視線が此方を向いた。
「貴方はこうして数々の霊障をでっち上げた。そうして仕上げとして樹里さんの遺体の焼却を図った。
人影を象る際に利用した穴の開いた布団と樹里さんの布団をすり替え、黄燐を砕いた粉末を仕込む。
黄リンの自然発火温度は、状態によって異なりますが、一般的に30℃~60℃程度です。
特に微粉状のものは34℃、固形状のものは60℃(水蒸気飽和空気中では30℃)で発火します。
黄リンは空気中で徐々に酸化され、自然発火する性質があるため、簡単に燃やす事ができた。
その際我々の目を樹里さんの遺体から逸らす時間稼ぎのためにちょっとした騒ぎが起こるよう竹束に細工を施したんです。
私がそれに巻き込まれたのは、貴方にとっては予想外の事だったとは思いますが」
「…………」
「以上が私の見解です。如何でしょうか?」